第97話 図書館の出会い
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西暦二〇X二年、四月一日夕刻。
建速紗雨と五馬乂、三縞凛音が、ボロアパート〝ひので荘〟で恋バナに耽っていた頃――。
「さあて、〝斥候〟新スキルのお披露目だ。紗雨ちゃんのアレンジを加えた変装術を使えば、顔が売れていても問題なし! ってね」
出雲桃太は騒動にならぬよう、額に刻まれた十字傷をバンダナで隠した後、紗雨から学んだ幻術を加えた化粧を施した。
最大の特徴を隠して、雰囲気を変えた効果は絶大で、最寄りのコンビニで夕食の弁当を買っても、店員に気づかれることはなかった。
今の桃太は、往来の人々の目を気にせず、街を自由に散策できるのだ。
「紗雨ちゃんと乂は幼馴染だし、凛音さんも今はカムロさんに保護されているんだから、きっと積もる話だってあるだろう」
桃太が部屋を出たのは、自分が四鳴家や一葉家に利用されている現状を知り、のぼせた頭を冷やしたかったのもあるし――。
乂が見抜いたとおり、紗雨とゆっくり話せるよう、あえて異世界クマ国の関係者を残して部屋を離れたのだ。
三人が政治面を含む相談が出来るよう、気をきかせてのことだったが……。
観察力に長けた桃太には珍しく、肝心なところを誤解していた。
(乂は、紗雨ちゃんが好きかも知れないし。紗雨ちゃんも、乂のことを想っているかも知れない。だから相棒、正々堂々真っ向勝負をしよう)
もしも直接聞いたなら、銀髪碧眼の少女も、金髪ストレートの不良少年も、目をむいて否定しただろう。
二人は家族同然に暮らしたからこそ、互いの長所欠点を知り抜いて、互いに彼氏彼女など考えもしなかったからだ。
(飲み物とおにぎりは、リュックの保冷袋に入れたし、小一時間したら帰ろう)
桃太は恋敵と見込んだ乂に塩を送るつもりだったのだが、マウテンパーカーを着てなお、夜風の冷たさが身に染みた。
寒さをしのぐため、巣に帰るのだろうか?
バサバサと翼をはためかせて鳩が飛び、ニャアニャアと鳴いて猫が塀をかけてゆく。
(なにも、外に居続けることはないか)
桃太もどこかの建物に入ろうと商店街を見渡すと、明々と光が灯るスポーツジムの隣に、まだ開館している図書館を見つけた。
「よし、ここにしよう。俺も、乂と凛音さんに頼るばかりじゃなくて、勇者パーティ〝S・E・I 〟の情報を集めておかないとね」
桃太は図書館に入った後、カウンターに荷物を預けて、〝C・H・O〟によるクーデター中の、勇者パーティの動向を改めて確認しようと、新聞のバックナンバーが保管された書架を探した。
案内図によると、どうやら目的のコーナーは、机やコピー複合機などが置かれた最奥のエリアにあるらしい。
(……あれ、あの子。足元が不安定じゃないか?)
桃太は本の積まれたパイプ棚の狭間を移動中、山吹色の髪を三つ編みに結った少女が何冊もの書籍を抱えながら、高い棚にある本を取ろうと、小さな脚立から背伸びをしているのを見てヒヤリとした。
「はわわ、わあっ」
「危ないよ、こっちへ」
案の定、少女は体勢を崩して転落しかけたが、桃太がお姫様を抱くように、両手で受け止めて事なきを得た。
「大丈夫かい?」
桃太は腕の中にすっぽりとおさまった、小さくも柔らかい、白いセーターを着た女の子に呼びかけて――困惑した。
(この強すぎる森林の匂い、昼間に黒騎士と交戦した時にかいだような。まさか)
あとがき
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