第95話 恋バナ
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幼馴染二人がじゃれ合う姿に、瞳と耳を包帯で隠した和服少女、三縞凛音は、わずかな嫉妬を抱きながらも、努めて冷静になろうと思考を巡らせていた。
(カムロさんは、去年の大晦日にどこかへ〝通神〟を入れてから、奇妙な行動を始めた。何か、彼にとって想定外の事件が起きたから、出雲君と紗雨ちゃんの関係を気にしはじめた? だったら、ただの後継者問題ではないのかしら?)
一方、幼馴染の建速紗雨から、相棒たる少年、出雲桃太との進展を聞き出そうと変化球を投げたものの、ものの見事に返り打ちにあった金髪の不良少年、五馬乂は、ぐぬぬと拳を握りしめて呻きつつ、突破口を探す。
「さ、サメ子はこの四ヶ月の間、相棒の側で何をやっていたんだ? ホテルを転々としながら、サメ映画だけ見て過ごしたって言うなら代わってくれ。オレも新しい漫画が読みたいんだ」
凛音が、「漫画は今言うべきことと、違うでしょう」と腕を伸ばして乂の革ジャンパーの袖をひいたが、彼はこれも策略のうちと口笛を吹いて誤魔化した。
「……サメ子だって、相棒のことを憎からず思っているんだろ?」
「もちろん、桃太おにーさんは初めて会った時から勇敢で、優しい人サメ。幼馴染のガイだから言うけど、紗雨はおにーさんとずっと一緒にいたいと思っているサメ」
意外や意外。
紗雨の真っ直ぐな発言に、乂と凛音は無意識のうちに背筋を伸ばしていた。
「お、おお。じゃあ、サメ子、オレと別れた後に相棒とどう過ごしたのか教えてくれよ」
「わ、ワタシも出雲君の敵だったわけだし。違う、そう、一般論として興味があるわ」
食い入るように身を乗り出す黄金ヘビの少年と三毛猫の少女に、サメ娘は恋する少年と過ごした四ヶ月間について語り始めた。
桃太は新たな英雄として姿を見せるため日本中を転々としたものの、カムロが裏で手を回してくれたおかげか、紗雨は世話役として行動を共にしたのだ。
「他にも人がいたのは残念だけど、まるで紗雨と桃太おにーさんの新婚旅行みたいだったサメ」
「サメ子、それは言い過ぎだぜ」
「紗雨さん、ワタシ達が聴きたいのはそういう話じゃなくて、貴女と出雲君の進展なのよ」
乂と凛音に詰め寄られた紗雨だが、悪戯っぽく微笑んだ。
「むふふー、ガイも凛音ちゃんも、紗雨の勇気に驚くサメ」
そして、紗雨は誇らしげに小さな胸を張り、得意げに言い放った。
「なんと、桃太おにーさんと手を繋いだサメ」
「「おー」」
乂と凛音は、予想もしなかった快挙にパチパチと拍手した。
「う、羨ましい」
「え、凛音。お前、相棒が好きだったの?」
「……違うわよ、このニブチン」
そんな二人の反応に気をよくしたのか、紗雨は更に胸を逸らす。
「しかも、今日なんて、一緒にご飯を食べさせあいっこしたサメ」
「「おおーっ!?」」
乂と凛音は紗雨の奮闘に感激し、更に盛大な拍手を送った。
「サメ子をみくびっていたぜ。これなら、告白とかもすぐだろ」
「紗雨ちゃん、初キッスはいつ頃の予定かしら?」
しかし、乂と凛音に尋ねられると、紗雨は顔を真っ赤にしてうずくまってしまう。
「む、無理を言わないで欲しいサメ。桃太おにーさんを意識したら急に恥ずかしくなったサメ。こ、これ以上の進展とかどうすればいいサメエ?」
「「ええーっ」」
あとがき
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