第94話 クマ国の後継者問題
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銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、幼馴染である金髪ストレートの不良少年、五馬乂から、自らの保護者であるカムロが、出雲桃太との関係進展を気にしてると聞いて、不思議そうに首を傾げた。
「ぐぬぬ。やっぱり、オレは反対だ。相棒にはサメ子よりも、もっと相応しい女の子が……」
「乂、ワタシが代わるわ」
役立たずの幼馴染の代わりに切り込んだのは、元勇者パーティ〝C・H・O〟の代表であり、猫の目と耳を包帯で隠した和服少女、三縞凛音だった。
「紗雨ちゃん。建速家は、クマ国では八大勇者パーティの代表に匹敵する名家らしいわね。カムロさんは、紗雨ちゃんと結婚させることで、桃太君を後継者に指名したいんじゃないかしら?」
「いや、ホント――去年の大晦日にどこかへ〝通神〟を入れてから――カムロの様子がおかしいんだよ。毎朝、サメ子を嫁にやるべきか、それとも桃太を婿にとるべきか、なんてブツブツ言いながら、鹿の骨を焚き火にくべているんだぜ。太占だか骨占いだか知らないが、怖いったらないぜ」
紗雨は牛頭の仮面をつけた保護者が、焚き火で芋を焼きながら、鹿の大腿骨を炙って占うのを想像したのか、目にメラメラと怒りの炎が揺らめいた。
「紗雨は、カムロのジイチャンに育てて貰ったことには感謝してるけど、桃太おにーさんと紗雨の関係に口を出したり、ましてや後継者指名に結婚を利用したりするなんて、おかしいサメ」
紗雨はすねたように頬を膨らませ、つーんと横を向いてしまった。
「サメ子、そうすねるなよ。きっとカムロも、おせっかいを焼きたいだけなんだよ。相棒だって、クマ国に住めば、日本国の政争から身を引けるじゃないか」
乂は必死でフォローを試みたが、紗雨の怒りは増すばかりだ。
「それこそ、余計なお世話サメ。桃太おにーさんが地球を離れても、クマ国のいざこざに巻き込まれたら意味ないサメ。だいたいクマ国の代表なんてブラック職は、ジイチャンだけがするべきサメ」
「紗雨ちゃんって、なかなか酷いことを言うわね」
凛音が直球で諌めたが、紗雨はどこ吹く風だ。
「オレもカムロを引退させたいが、このままだとコウエン将軍が次代のトップに名乗りをあげちまうぜ。あの人の軍事手腕は認めるが、そうなったら地球へ向かって攻めこみかねない。サメ子も相棒と一緒に黒騎士なんて奴と戦ったのならわかるだろう? 疑いたくはないが、クマ国内の世論を動かすために、蒸気技術を流出させた疑いだってあるんだ」
「だったらガイが八咫烏のアカツキと一緒に止めればいいサメ。証拠もないのに立場だけで怪しんだり、政略結婚を持ち出すなんて、なんだか不良じゃなくてダメ教師みたいサメね」
「ぐはっ」
紗雨と乂。幼馴染二人がじゃれ合う姿に、凛音はわずかな嫉妬を抱きながらも、努めて冷静になろうと思考を巡らせていた。
(カムロさんは、去年の大晦日にどこかへ〝通神〟を入れてから、奇妙な行動を始めた。何か、彼にとって想定外の事件が起きたから、出雲君と紗雨ちゃんの関係を気にしはじめた? だったら、ただの後継者問題ではないのかしら?)
あとがき
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