第93話 来訪の理由
93
「シャシャシャ。相棒に気を使わせたか。変に勘違いしていないといいが……」
五馬乂は、クマ国関係者だけで話が出来るよう、出雲桃太がわざと席を外して、コンビニへ出かけたのだと勘づいていた。
「チョココロネ、楽しみサメエ」
「に、日本茶じゃなくて紅茶。ふらいどぽてとなんて食べて怒られないかしら」
が、彼の幼馴染である、建速紗雨と三縞凛音の二人が気づいているかは怪しかった。
「凛音の家も厳しかったんだなあ。サメ子のところは、カムロのジジイがダダアマだから困る。ほれ、愛用の龍笛を預かってきた」
紗雨は乂が荷物袋から取り出した、竹に黒い漆を塗り、七つの穴が空けられた横笛を受け取って、いーと顔をしかめた。
「ガイはわかってない。ジイチャンは厳しいサメ。この龍笛だって吹けるようになるまで、ずっと隣で教えられたサメ」
「つきっきりで練習してくれるあたり、あのジジイはサメ子にベタアマだよ。今後も戦うだろう鬼どもには、ダンスだけじゃなくて音楽も有効みたいだし、これで手札も増えるだろ」
「音楽演奏を武器にするのは、ジイチャンだけにして欲しいサメエ」
紗雨は口では不服そうだったものの、龍笛を大切そうに胸におし抱いた。
「この龍笛を届けるために、ガイと凛音ちゃんは地球まで来てくれたサメ?」
「凛音がついて来たのは、桃太に一言謝りたかっただからだとよ。オレは、日本政府の外交官、奥羽以遠が用意した身分証が機能してるかの確認と……」
「それなら大丈夫サメ。今日、警察の人に会ったけど、問題なかったサメ」
乂は、さっそく警察沙汰になっているんじゃないよと呆れたものの、桃太から聞き出した黒騎士との交戦を思い出して納得した。
「ま、そういうことなら仕方ない。実はジジイからひとつ頼まれごとがあってな――」
金髪ストレートの少年は素肌の上につけた皮ジャンパーの襟元を落ち着きなく何度も掴んだ後、銀髪の幼馴染に向かって告げた。
「サメ子と桃太との仲が進展したか聞いてこい、だとさ」
「サ、サメエ?」
紗雨は、乂の質問を、まるで想像していなかったらしい。
「紗雨と桃太おにーさんの仲を、どうしてジイチャンが気にするサメ?」
「そりゃあ、サメ子、お前だってわかるだろう?」
「わからんサメ」
紗雨が聞き返すと、なぜか乂はしどろもどろになってしまう。
「サメ子、花にはおしべとめしべがあってだなあ」
「ガイ、その喩えはいらんサメ。わざと話を逸らすのはやめるサメー」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)