第91話 桃太と凛音
91
「ただの事実だぜ。凛音はどちらの家が犯人かわからんと言っていたが、オレが思うに……。
四鳴啓介とS・E・I 〟は、相棒を常に監視できる、この〝ひので荘〟という鳥かごに入れようとしている。
一葉朱蘭も〝J・Y・O〟に手を回して、相棒をふんだくる為に、公園で黒騎士とやらをけしかけた――んじゃあないか?」
出雲桃太は、相棒であり、勇者パーティ 五馬乂の仮説を聞いて、ようやく自分が置かれている立場を自覚した。
『桃太よ、お前に惚れた。妾と共に新世界を築こうではないか?』
〝C・H・O〟との決戦の後に出会った、黒いドレスを着た妖艶な女、獅子央賈南が、茶目っ気たっぷりにウィンクした姿が脳裏に浮かぶ。
(賈南さん、あの怖い人は言っていた。次の演目はじき始まるって)
黒山を倒したあの時から、次期代表を巡る暗闘が始まることも、桃太が巻き込まれることも、彼女は予見していたのかも知れない。
「俺は、週刊誌に書かれているような立派な存在じゃなくて、ただの復讐者だよ。リッキーの仇討ちだって終えた。啓介さん達が英雄になりたいというなら、それでも構わないんだ」
「いいえ、出雲君。一葉家や四鳴家がどんな戯言を述べようとも、日本中の誰もが知っているわ。〝C・H・O〟を倒したのは、貴方だって。代表だったワタシが証明してあげる」
白茶黒の三毛猫姿だった三縞凛音は乂の腕中から飛び降りるや、橙色の着物に、白い花柄をあしらった黒い帯を巻いた和服姿へと変身した。
「三縞代表……」
先の戦いで、彼女に埋め込まれた〝鬼神具・ホルスの目〟は破損したものの、クマ国で修理と改良を終えたのだろう。
かつてはガラスめいていた瞳は猫の目に、アンテナ型だった耳も白い毛に包まれた獣耳にと、外見が大きく様変わりしている。
「出雲君、ワタシを見て。仇討ちはまだ終わってなんていない。貴方の大切な親友を殺し、理不尽な理由でパーティを追放した仇はここにいる。どうか裁いて欲しい。貴方が英雄だって自覚して欲しい。そのために、恥を忍んでやって来たの」
凛音の声は、今にも壊れそうなほどに震えていた。
「やめてくれ。三縞代表は〝鬼の力〟を広める獅子央賈南さんを止めたかっただけだろう? その理想を利用した鷹舟俊忠副代表と、幹部の黒山犬斗に操られていただけじゃないか」
桃太は両手を伸ばし、凛音の張り詰めた頬に触れ、呻くように告げた。
「黒山との戦いで三縞代表は、いいや、凛音さんは、身を挺して、俺と紗雨ちゃんを助けてくれた」
「出雲君は、ワタシを……」
「憎んでいないとは言えない。でも、俺は貴女に生きていて欲しい」
「ありがとう」
桃太の言葉に、凛音の整った顔がぐしゃぐしゃに歪んだ。嗚咽混じりの声で言葉を紡ぐ。
「ワタシは間違えた。だから、出雲君はどうか忘れないで。投げ出さずに、誰を信じていいのか、何をすればいいのか、ちゃんと考えて」
「そうだね。肝に銘じるよ」
桃太は凛音に手を差し出して、仲直りの握手を交わした。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)