第90話 出雲桃太という英雄像
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「み、三縞代表は俺を持ち上げすぎだよ。俺一人の力じゃない。紗雨ちゃんや乂達の協力があったから戦えたんだ。レジスタンスも名前ばかりの代表で、実際に指揮したのは遥花先生だよ」
出雲桃太は、かつて戦った三縞凛音から「冒険者組合の次期代表に相応しい」と言われ、慌てて首を横に振った。
「そうかしら。出雲君が中心にいたからこそ、レジスタンスはあれほど強かったんじゃない?」
「むふふー。桃太おにーさん、ここに先の戦いについて書かれた雑誌があるサメ。桃太おにーさんの記事が多くて、地球に来てからいっぱい集めたんだサメエ」
「え、本当に? 自分の写真を見ると、なんだか恥ずかしいなあ」
紗雨が鞄から取り出した何十冊という週刊誌には、桃太とレジスタンスの活躍を報じる記事が、ところ狭しと並んでいた。
『異界迷宮カクリヨに異変!? 謎のレジスタンスが〝C・H・O〟の補給基地を制圧か?』
『ニューヒーロー誕生? レジスタンスの指導者は〝C・H・O〟を追放された出雲桃太氏。圧倒的なカリスマで勢力拡大中。魅了された投降者続出で、参加冒険者は既に古巣を上回った!?』
『レジスタンスの快進撃続く! カクリヨ内の〝C・H・O〟拠点の九割をわずか一ヶ月で電撃的に制圧!!』
『出雲桃太、〝C・H・O〟の〝鬼勇者〟三縞凛音、〝剣鬼〟鷹舟俊忠、〝暗黒鬼士〟黒山犬斗を相次いで撃破! 地上に降り注ぐ岩塊の砲撃が遂に止まる!!』
『レジスタンス由来のダンスが冒険者間で流行中。始めたのは、あの出雲桃太氏か?』
桃太は記事を読んで恥ずかしくなり、顔を赤くしてぷるぷると震えた。
(乂と紗雨ちゃん、それにクマ国と八岐大蛇に関する情報は、全てカットか。日本政府役人の、奥羽以遠さんあたりが流したのかなあ)
取材元や、挑発的なタイトルが気になったものの、記事の中身はおおよそ真実だ。
その一方、『自分たちこそ〝C・H・O〟を倒した新たな英雄』と喧伝している勇者パーティS・E・I 〟を率いる四鳴啓介と、〝J・Y・O〟を支配する一葉朱蘭だが……。
「桃太おにーさんや他の勇者パーティが頑張っていたのに、〝S・E・I〟も〝J・Y・O〟も何もしていないサメ。地上に残った〝C・H・O〟の残党に、ただただボコられていただけサメ」
雑誌の中には、五馬家、六辻家、七罪家が擁する勇者パーティの勝利を讃える記事も見つかったが……。
四鳴家の〝S・E・I 〟と、一葉家の〝J・Y・O〟は、完全に埋没していた。
「ああ、サメ子の言うとおりだぜ。だから啓介の奴は、無知な相棒を引き込んだのさ」
桃太と紗雨が凛音と話しているうちに、立ち直ったのだろう。
乂は三毛猫姿の凛音を抱き上げながら、しみのついた天井を仰いだ。
「自分たちこそが〝新たなる英雄〟出雲桃太の所属する勇者パーティでございってな。奴からすれば、うっかり協力員になってしまった相棒は、金の卵を産む鶏がひょこひょこやってきたに等しいぜ」
「乂、今のはトロフィーより酷いたとえじゃ無いか?」
「ただの事実だぜ。凛音はどちらの家が犯人かわからんと言っていたが、オレが思うに……。
四鳴啓介と〝S・E・I 〟は、相棒を常に監視できる、この〝ひので荘〟という鳥かごに入れようとしている。
一葉朱蘭も〝J・Y・O〟に手を回して、相棒をふんだくる為に、公園で黒騎士とやらをけしかけた――んじゃあないか?」
あとがき
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