第89話 次の天下を握るもの
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「み、三縞代表は四鳴家と一葉家にも詳しいんだね……」
「ワタシを支えてくれた鷹舟俊忠は、元々は一葉家に所属する冒険者だったの。啓介の母親や、朱蘭の付き人として四鳴家に出向した時、酷い私刑に遭って追い出されたらしいの。それで、三縞家に来たのよ。彼は両家を警戒していて、スパイを潜り込ませていたわ」
桃太は、鷹舟が最期まで凛音を守ろうとして消えていった姿を思いだし、拳に力をこめた。
「三縞代表が情報通なのはわかった。でも、どうして俺が四鳴家の内紛や、一葉家との抗争に巻き込まれているのさ?」
「出雲君が優勝トロフィーだから。いえ、こう言い換えてもいい。四鳴啓介か一葉朱蘭か? 貴方を迎えた陣営が、冒険者組合、すなわち日本国の天下を握ると言っても過言じゃないわ」
「わ、わけがわからない。過大評価にも程がある。俺はただの研修生だよ」
桃太は冗談じゃないと叫びたかった。
政治闘争のトロフィー扱いをされる為に、〝C・H・O〟と戦ったわけではない。
ただ親友の、呉陸喜の仇を討ちたかっただけなのだ。
「ごめんなさい。話を焦ったかしら? でも、出雲君だって、冒険者組合に絶大な権力があるってことは知っているでしょう?」
乂の頭部で香箱座りをしていた三毛猫姿の凛音は、幼馴染の膝上に飛び降りて、ぐっと背筋を伸ばした。
「北の軍事大国が、扉を開いてから半世紀以上。異界迷宮カクリヨへから採れる資源なしに、地球の経済は回らないわ。上納品の分配だけで国を動かせるのよ」
旧来の火力・原子力発電をこえる発電材料。
人類の食料事情を一気に改善した果実や穀物。
技術革新を進め、社会資本維持するための様々な新素材。
カクリヨなくして、もはや人類の文明は維持できなくなりつつある。
「うん、それは知ってるよ。あの恐ろしい人、獅子央賈南さんは、その権力と財力で〝鬼の力〟の研究を止めたり、政治に干渉していたんだよね」
桃太は凛音に向き合って、首を縦に振った。
今や三毛猫の姿となった少女は、元々冒険者組合を掌握することで、危険な〝鬼の力〟の拡散を止めようという、大志を抱いていたのだ。
けれど、その尊い決意は、副官の鷹舟や幹部の黒山に利用され、日本政府打倒のクーデターへと捻じ曲げられてしまった。
「そしてあの魔女、獅子央賈南が死んだ――表向き死んだことにより、彼女が操っていた獅子央孝恵代表も今年の夏に退任。育成学校の校長以外の職務を失うわ。空白になった冒険者組合代表の座を巡り、様々な勢力が暗躍中よ。あの女は、こうなることを見越して、死を偽装したのかも知れないわ」
「……今年の五月に開催される、冒険者組合の総会で決めるって言っていたね」
桃太はなんとなく、公平な選挙で決めるのだろうと信じていた。しかし?
「その総会だけど、ワタシが〝この瞳〟で調べたけれど、既に時期代表候補は内定済みよ。
勇者パーティ〝S・E・I 〟代表の四鳴啓介。
彼の叔母で〝J・Y・O〟を支配している一葉朱蘭。
二人の候補者のうち、どちらかが次期代表に指名されるそうよ」
「そ、そうなの? 他の勇者パーティもてっきり候補を立てるものだと思ったから、急な話でびっくりだよ」
唖然とする桃太を横目に、凛音は低い声で話を続けた。
「二人とも、自分たちこそが〝C・H・O〟を倒した新たな英雄で、冒険者組合を差配するに相応しい指導者だと圧力をかけて、他の勇者パーティの立候補を阻んだそうよ」
「あれ、なんかおかしくない? 無理がある気がするぞ……」
「そうでしょうとも。その理屈であれば、もっとも代表に相応しいのは、出雲桃太君、貴方だもの」
あとがき
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