第88話 冒険者組合の歴史とお家騒動
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、金髪ストレートの不良少年、五馬乂は、ここぞとばかりに、名乗りや必殺技について討論を始めた。
「サメエ。変な名付け方は、ガイの悪い癖サメエ」
「あら、むしろ可愛いらしくない? ワタシは好きよ」
が、銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、三毛猫姿の三縞凛音に口を挟まれて恥ずかしくなり、二人揃って咳払いをして収めた。
「すまない、乂。話の腰を折るところだった」
「いや、オレも脱線して悪かった。相棒は、一葉家を疑わしいって言いたいんだろうが、ここから話がややこしくなる。四鳴家は〝勇者の秘奥〟を獲得する為に、他の七家に政略結婚を打診したんだ。その工作は身を結び、一葉家の代表だった亮の長女が輿入れした。出産直後に亡くなったが、それが啓介の母親だ。そして……」
乂は、己のたかぶる感情を抑えたいのか、深く深く息を吸った。
「一〇年前の、冒険者組合を作った獅子央焔の死をきっかけに、八大勇者パーティすべてを巻き込む大事件が始まった」
乂は一〇年前の事件で父や母、大勢の親族を亡くしている。
「最初に冒険者組合を支配したのは、焔の後妻、弘農楊子の父親だった弘農楊駿だ。奴は〝焔に後事を託された〟という偽の遺言書を使って権力を握ったが、無能過ぎて冒険者組合を運営できず、組織した政党も選挙にも負けて行方不明になった」
「クーデターで死刑判決を受けた黒山が偉そうに言っていたよ。弘農政権は素人ばかりで、官僚の自分が好き放題できたって」
行方不明だった弘農親子の死体はクーデターの後、この〝楽陽区〟で発見された。
親子揃って鬼となり心中した後、政敵であった獅子央賈南によって石化されたのだという。
「次に、冒険者組合の代表になったのは、八大勇者パーティのひとつ〝J・Y・O〟の代表であり、四鳴啓介の祖父でもある一葉亮だ。けれど、楊駿の後始末に忙殺されたせいか、それとも重圧に耐えきれなかったのか、異界迷宮カクリヨで怪物と交戦中に鬼へと堕ちた。そしてオレの家族、五馬家と、瑠衣姉さんの指揮する二河家が彼を討った」
乂は話を続けようとしたが、涙ぐんで声が震えていた。その直後に、弟を除く彼の家族がえん罪によって討たれたのだから無理はない。
他の勇者パーティにとって、商売敵である五馬家と二河家は、そこまで疎ましい存在だったのだろうか?
それとも討伐作戦を仕組んだ、勇者パーティ〝C・H・O〟の鷹舟俊忠が、余程に上手く周囲をのせたのか?
「……乂、少し休んで。後はワタシが話すわ」
乂を労わるように、彼の幼馴染であり、〝C・H・O〟代表でもあった凛音が、広い背中を肉球のついた右足でぽんぽんと叩き、金髪の頭部へと駆け上がった。
「四鳴啓介の亡くなった母親は、さっき乂が言ったように一葉家の出身なの。そして、結婚した姉についてきた次女の朱蘭は、一〇年前の混乱で縮小した〝J・Y・O〟から人材を引き抜き、一葉家の徒党で四鳴家から〝S・E・I 〟をのっとろうと工作を始めたの。今では副代表になって、甥の啓介と抗争中よ。結果的に両家は一つになったり分かれたりを繰り返して、〝勇者の秘奥〟も共有されたみたいよ」
「うわあ」
「ひええ、サメ」
絵に描いたような、お家騒動である。
「だから、〝時空結界〟を使った犯人は一葉家とは限らない。四鳴家の可能性もあるの。はっきり言ってしまえば、出雲君は両家の抗争に巻き込まれているわ」
「なんで!?」
あとがき
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