第87話 勇者の秘奥
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桃太はいつの間にか、あるいは奸計によって外部協力員と言うことにされてしまった――勇者パーティ〝S・E・I 〟と四鳴家が――厄まみれだと、相棒の乂から聞かされて顔を覆った。
「そうなのか?」
「サメエ? ガイといい、凛音ちゃんといい、勇者パーティって面倒くさいサメね」
「否定できないのが悲しいわね」
桃太と紗雨は初耳だったが、乂の言葉に三毛猫姿の凛音も頷いている以上、事実なのだろう。
「身内の恥だ。あまり触れたくはなかったが、相棒とサメ子が危険なんじゃ、そうも言ってられん。まず八大勇者パーティっていうのは、獅子央焔の親戚や、初代勇者パーティのメンバーが家を起こしたんだぜ」
乂は、桃太が持ってきた湯飲みで喉を潤した後、言葉を選びながら説明を続けた。
八大勇者パーティのひとつ〝N・A・G・A〟の元代表にして、かつての五馬家当主として、知る限りの情報を提供すると決めたようだ。
「そして四鳴家の初代当主は、二次大戦後に勢力を拡大化した、新進気鋭の企業グループの御曹司だったんだ。その財力を活かして、冒険者組合創設の一助となったんだが……」
金髪ストレートの青年は、赤い瞳を両方の手で覆った。
「商売のやり口があまりに汚くてな。冒険者組合幹部という立場を利用して、他所の企業から商品は盗むわ技術者を奪うわ、酷い暴れっぷりだったと五馬家に伝わっているぜ」
桃太が四鳴家の所業を知って、肩を落としたのは言うまでもない。
「おまけに悪い意味で金持ちだと鼻にかけていたから、一般家庭出身の獅子央焔ともウマがあわなかったらしい。あれやこれやと冷遇されて、三縞家の〝サイボーグ技術〟のような、〝勇者の秘奥〟も貰えなかったと聞くぜ」
「〝勇者の秘奥〟だって? 他の家にも、ああいう特殊な技術があるの?」
桃太は、耳慣れない言葉を聞いて、興味津々で身を乗り出した。
その技術こそが、凛音のような〝鬼勇者〟を支える土壌であり、他の冒険者パーティと隔絶する強さを誇る、秘密なのかも知れない。
乂は流れるような金髪をかき上げ、しみのついた天井に向け人差し指を向けた。
「ある。オレが知る限りだが……
一葉家は、呪符を使った〝結界術〟や〝式鬼〟と呼ばれる召喚術。
二河家は、一時的に全身を変化させる〝獣化〟という変身術。
五馬家は、〝葉隠〟と名付けられた特殊な体術、を授けられている」
桃太は乂の説明になるほどと頷いた。
(英雄、獅子央焔が、四鳴家以外の八大勇者パーティにもたらした技術、〝勇者の秘奥〟だなんて、まず一般には知られていない、切り札のはずだ。だとすれば、あの黒騎士は……)
桃太は、昼に交戦した黒騎士が〝C・H・O〟の壊滅後に、〝結界術〟を伝える一葉家に庇護されたのではないかと勘付いた。
が、その前に。どうしても無視できない案件がもう一つあった。
「乂は、五馬家に伝えられた〝勇者の秘奥〟を〝ハイド・ザ・リーブズ〟って言ったけど、その体術は〝はがくれ〟って読むんじゃないの?」
桃太が真顔でツッコミを入れると、乂はギクリと背を震わせ、視線を逸らして口笛を吹いた。
「乂、前から思っていたんだ。俺たち二人が変身した時の役名は〝忍者〟なのに、英語を叫ぶのはおかしくないか? せっかく黒装束を着ているのに、あんまり忍んでないし」
「おいおい、英語の方がカッコいいだろうっ。こういうのはノリだよノリ、カムロの爺さんみたいに固いこと言ってると髪が白くなるぞ?」
あとがき
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