第86話 友、遠方より来たる
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「桃太おにーさん。絶対に騙されてるよ! こんなボロボロの外見で、安全なはずないサメ」
紗雨は繋いだ手をぶんぶん振って、勇者パーティ〝S・E・I 〟が桃太に割り当てた住居〝ひので荘〟こと、日焼けした築五〇年の集合住宅に抗議した。
「紗雨ちゃん。そうは言うけど交番も近いし、入り口には警備室もあるから大丈夫だよ。ほら、監視カメラとかもいっぱいあるし」
桃太がもう一方の手でアパートを指差すと、確かに膨大な数のカメラが設置されていた。
「あのカメラ、侵入者じゃなくて桃太おにーさんを監視しているみたいサメ。お部屋も注意しないと、ひょっとしたら盗聴器とか仕掛けられてるかも?」
「はは、考え過ぎだよ」
桃太は入り口の警備室を見たが、未だ警備員は来ていないのか無人だった。
鍵で一号室と書かれたドアを開けて中に入ると、寝室である畳敷きの六畳間のちゃぶ台の上で、黄金色の蛇と、白と茶、黒の三色が愛らしい三毛猫が丸まっていた。
「シャシャシャ。相棒、邪魔しているぜ」
「出雲君、ごめんなさいね。くつろいでしまって」
「ほら桃太おにーさん、さっそく不審な動物が入り込んでいるよ。早く警察に引き取ってもらうサメ!」
「いやいや紗雨ちゃん、動物……いや正体は人間だから、警察でいいのか?」
黄金の蛇の正体は、桃太と共に〝C・H・O〟との戦いを潜り抜けた相棒、五馬乂。
三毛猫の正体は、その〝C・H・O〟の代表だった三縞凛音だ。
二人も紗雨と同様、強力な〝鬼神具〟と契約したことで、動物に変化する呪いにかかっているのだ。
「いきなり居たからびっくりしたよ。乂も三縞代表も、遠いクマ国からよく来てくれたね」
「事前の連絡もなく、デートの邪魔をすることになって悪かったな。詫びと挨拶代わりに、相棒の安全確認をしておいたぜ」
乂と凛音が視線を向けると、和室の隅には破壊された盗聴器や、引きちぎられた禍々しい呪符が山と積まれていた。
「なるほど、紗雨ちゃんの言う通りだったか」
「やっぱり勇者パーティ〝S・E・I 〟は信用できないサメエ」
いつもは楽観的な桃太だが、アパート内部に仕掛けられた盗聴機と呪符の山を見てさすがにショックを受けていた。
「乂。俺は啓介さんの機嫌を損ねたのかな? 今日は変な黒騎士に襲われるし、家には細工されるし、参っちゃうよ」
桃太はワンコインショップで買った急須に番茶のティーバッグを入れて湯を注ぎ、四人分の湯飲みをお盆にのせて台所から運びながら、疲れた声でうめいた。
「相棒、詳しく話せ。そもそもなんで桃太が四鳴啓介なんて世間知らずのボンボンが率いる〝S・E・I 〟に参加しているんだ?」
黄金色の蛇は、ちゃぶ台の側にある座布団の上でとぐろを巻いていたが、只事ではないと赤い目を光らせた。
「〝C・H・O〟との戦いが終わったあと、カクリヨから出るときに、啓介さんに手を引かれたんだ。そしたらいつの間にか、〝S・E・I 〟の外部協力者という扱いになっていた」
「……シャシャシャ。相棒はそういうところ甘いから、今後は気をつけてくれ」
黄金の蛇こと五馬乂は苦笑いすると、ぼふんという音を立て煙をあげて、深紅の瞳と美しいストレートの金髪を持つ美男子へ変身した。
ただし、背中に『漢道』と刺繍した革ジャンを素肌の上に羽織り、太腿の付け根から裾まで広いドカンめいたボトムを身につけるという、相変わらずのカッ飛んだ服のセンスだ。
「相棒が知らないのも無理はないが、四鳴家は厄だらけなんだぜ」
あとがき
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