第84話 黒騎士の正体?
84
桃太は黒騎士との交戦中に、亡くなった親友、呉陸喜のことを思い出したが、奥歯を噛んで戦闘に集中した。
「黒騎士。随分と俺を研究したようだが、今回ばかりはそれも計算のうちだ。紗雨ちゃん、憑依解除!」
桃太は膝蹴りの後、黒騎士の肩部装甲を踏み台に跳躍しつつ、紗雨の仮面を外して、白銀の光に包まれながら空を飛ぶサメに変わるのを待った。
「桃太おにーさん、つかまって」
「ああ。空中なら、でがかりはつぶせないだろ。〝生太刀・草薙〟!」
桃太は左手で紗雨につかまって飛翔し、空中から黒騎士を二メートルの射程に収めて、先程は不完全だった必殺技を背後から放った。
上空からでは、黒騎士の全身をカバーするのは不可能だろうが――。
「その仮面と、ランドセルに積んだ動力炉、壊させてもらう!」
「!!??」
桃太の必殺技が、今度こそ発動する。
黒騎士は何やら呪符のようなものを叩きつけたが、防御を貫通する〝生太刀・草薙〟には通じない。
圧縮された衝撃波は振動と反射を繰り返しながら、黒い鬼が背負ったランドセルパーツを破壊し、オルガンパイプめいた排気口と蒸気機関を使う動力炉を吹き飛ばした。
(なんだ、地球の木炭じゃあり得ない、強い森林の匂いがする。正体は、クマ国の住人か? それとも〝C・H・O〟の残党か?)
桃太は、黒騎士の顔を見ようと目を細めた。
しかし鬼面を模したヘルメットは、ギリギリで草薙の射程から外れていた。
いや、おそらく最後に放った呪符で身体を移動させ、意図的に避けたのだ。
「黒騎士、お前はいったい誰だ?」
「……」
桃太は答えぬと知ってなお、再度問いかけずにはいられなかった。
鎧を破壊したのだ、怒気や敵意を向けられるならわかる。
しかし、黒騎士は桃太を賞賛するかのように、左手の親指をあげていた。
「!!」
その直後。黒騎士の左腕が二の腕から外れ、ロケットのように火を吹きながら射出される。
「その腕、鷹舟の〝鬼神具〟に似ているけれど、使い方がめちゃくちゃだ。なんでロケットパンチ機能なんてつけたの!?」
桃太が、ロマンに振り切れたギミックにツッコミを入れた瞬間――。
これが解答だと言わんばかりに、黒騎士の左腕が呪符を撒き散らし、煙幕を発生させた。
機械仕掛けの左手は、あたかもラジコン飛行機のようにUターンして本体に舞い戻る。
恐るべき襲撃者は煙に紛れて公園を離脱、何処かへと消えていった。
「〝時空結界〟も、解かれたのか?」
幸いなことに、結界内で壊れた器物、ベンチや遊具は元通りになっていた。
だが、散った花や折れた木はそのままだ。もしも敗北していたら、命はなかったかも知れない。
「暗殺や防衛専門の術ってことか。えげつない。初見殺しにもほどがあるじゃないか」
桃太は冷静になると、己の膝が恐怖で震えていることに気づいた。
灰色がかった景色が元通りになり、早速異常に気づいたらしい警察の車両が、サイレンを鳴らして公園を取り巻いている。
しかし、あの桁外れの強さでは、捕まえるのは困難だろう。
そして、桃太も二度の草薙を放ったことで、追撃する余力はなかった。
「桃太おにーさん、逃げられちゃったね……」
「紗雨ちゃん、俺、新しい学校で勉強して、もっと強くなるよ!」
「うんっ」
桃太は、人間に戻った紗雨と抱き合って、新生活への決意を新たにした。
二人は知らない。
逃亡したとばかり思われた黒騎士が、近くの茂みに隠れていたことを。
「……呉陸喜。まったく友達想いなことだネ。この鎧には生命維持装置がついているんだゾ。せっかく蘇った己の命を賭して、出雲クンに〝時空結界〟内部の戦いを予習させたのかい?」
彼の隣では、ナマズ髭付きの鼻眼鏡をかけ、白い水着めいたビキニアーマーの上に作務衣を羽織った女、〝寿・狆〟こと、オウモが鎧の損傷を手早く修理する。
「貴方に言われたくない、か。ごもっとも、吾輩達は良いチームになれそうだネ。これから二人三脚で、……良からぬことを始めよう!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)