第83話 懐かしい気配
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桃太は、紗雨による水遁の術で黒騎士を撹乱し、一気に間合いを詰めることに成功した。
「このまま倒す!」
さしもの黒騎士も慌てたのか、それとも桃太にモード選択の隙を突かれることを恐れたのか?
右目を隠す眼帯の絵が弓のまま……、すなわち狙撃を得意とする〝狩猟鬼〟形態を続行したまま、サイボーグ化された右腕の銃を振り回し、研ぎ澄まされたナイフを左手に握って白兵戦に応じる。
「!!」
と見せかけて――。
黒騎士はナイフに〝鬼の力〟を集めて、雷を放ってきた。
「そうくると思っていたよ。悪いな、今の俺は二人なんだ」
しかし、黒騎士が桃太の対策を練っていたように。
桃太もまた、この戦闘で黒騎士の戦闘手段を学んでいた。
「サメっサメエ。桃太おにーさんは、紗雨が守るサメエ」
黒騎士の不意打ちは、桃太に直撃するところ、紗雨がお盆に似た水の盾を作り出し、雷を逸らしたことで難を逃れた。
「〝狩猟鬼〟だか、〝一目鬼〟だか知らないがっ。黒騎士、お前の正体がわかったぞ!」
「!!??」
桃太が喝破した瞬間、黒騎士は目に見えて動揺した。
苦し紛れとばかりに右腕の長銃を放とうとするも、取り回しの悪さから致命的な隙を生んでしまう。
「お前は、元勇者パーティ〝C・H・O〟の団員、それも〝黒鬼術士〟だ!」
「!?」
桃太は決定的な事実を指摘しながら、踊るようなステップを踏んで、黒騎士が銃を仕込んだサイボーグの右腕を掴み取る。
「我流・鎧徹し!」
「!!???」
そうして内部に衝撃波を送り込み、腕と一緒に収納された長銃をバラバラになるまで破壊した。
「遥花先生に習ったんだろう? 動きに癖が残っているんだ。同門だからこそ、お前がまだテロを続けるっていうなら、容赦はしない!」
「!!」
黒騎士は最大の武器を失いつつも、鬼面を模したヘルメットからのぞく赤い左瞳でしっかりと桃太を見据え、ナイフから雷を放って応戦する。
「桃太おにーさん。紗雨が水術で雷を逸らすサメエ」
「ありがと紗雨ちゃん、二人であいつの鬼面をむしりとってやろう」
紗雨の支援を受けながら、桃太は間合いを詰めて、水をまとった右の肘打ちから裏拳、膝蹴りと連続攻撃を重ねた。
「!!」
「うっ」
しかし、黒騎士は右手の銃を失ったことで身軽となり、左手のナイフで桃太の技を受け流しつつ、体当たりで反撃。
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘続行!」
僅かな間合いが開いた隙に、右目を隠す眼帯の絵を弓から槌に変えて、再び高速戦闘モードに移行した。
そうして重い装甲を苦手ともせずに、むしろ利用した体術で桃太と互角に殴り合う。
(なぜだ、殺し合っているのに、妙に懐かしい)
桃太は半年前、幾度となく繰り返した親友、呉陸喜との模擬戦を思い出した。
(でも、あいつは死んだ。もう生きては、いないんだ)
陸喜は勇者パーティを追放された桃太を庇い、悪漢の凶弾に倒れたのだ。
だから、この黒騎士が親友であるはずがない。
あとがき
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