第82話 行者 対 黒騎士
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桃太は紗雨が変じた仮面を被り、白衣に鈴懸を羽織った法衣姿の〝行者〟となった。
二人は当初、サメ映画のサメが銀幕を泳ぐような、尋常ならざるスピードで黒騎士を翻弄したのだが……。
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘続行!」
黒騎士は狙撃形態である〝狩猟鬼〟から、高速移動が可能な〝一目鬼〟に戦闘モードを変更。
鎧に仕込んだ蒸気機関を最大稼働させ、オルガンパイプ状の排気口とブーツから熱気を吐き出すことでホバー走行を実現し、桃太と並走しつつナイフで切り結んだ。
『むうう、二つも〝鬼神具〟を使うなんて、いんちきサメ。こうなったら容赦しない。桃太おにーさん、ドリルを使うサメ!』
「わかった、紗雨ちゃん。地中から攻めるんだね」
額に十字傷を刻まれた少年は、左手にまとわせた水のドリルで地面を掘り、砲撃から逃れて敵の背後へ回る。
「むふふー。これならどうサメって、あぶなっ」
しかし、地上に飛び出した瞬間。
右目を槌が描かれた眼帯で隠す鬼面の黒騎士は、待ち受けていたかのように、背負ったランドセルパーツからワイヤー状の網を射出した。
「紗雨ちゃん、避けるよ!」
桃太が横っ飛びに跳躍すると、網は彼が直前までいた場所を広く覆って、公園のすべり台やシーソーを巻き込みながら電撃を放った。
木とプラスチックの焼け焦げる匂いが鼻をくすぐり、背筋が寒くなる。
「桃太おにーさん、網なんて何枚も用意できないサメ。このまま何度も繰り返せば……戻ってゆくサメ?」
「あのランドセルには、巻上機能までついているのか!?」
おまけに網も使い捨てかと思いきや、回収から再利用まで想定されているようだ。
タイムラグの生じる地中からの奇襲は、困難と見るべきだろう。
桃太が着地したとき、白い法衣から携帯端末がこぼれ落ちた。
石畳に転がる端末のディスプレイは真っ暗になっており、異界迷宮カクリヨやクマ国で見たように、完全に機能が停止していた。
「〝時空結界〟内でも精密機械は使えないのか。けれど、向こうは使ってくる。こいつは厳しいな」
「よ、弱ったサメエ」
「上等だ! 反則野郎なんかに負けるものか。紗雨ちゃん、ゴニョゴニョ」
「……サメサメ。わかったサメエ!」
桃太が耳元で囁くと、紗雨はくすぐったそうに微笑んだあと、なにやらテンションがあがって、その場で飛び上がった。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。戦闘続行!」
一方の黒騎士は、桃太達が距離をとったことで、再び射撃戦をしかけようという心づもりらしい。
マイクから合成音声が流れるや、右目を隠す眼帯の絵が槌から弓に変わり、ホバー走行機能が停止する。
引き換えに右腕から全長一メートルに及ぶ長銃を引き出す狙撃形態となって、赤い左目を光らせながら待ちの姿勢を取った。
「今だっ」
桃太はそんな黒騎士に対し足元から石を蹴り上げ、サイドスローで投げつけた。
「!?」
黒騎士は籠手で受け止め、反撃しようと長銃を構えるも……。
桃太が投げつけた石には、衝突と同時に水が噴き出すよう――他ならぬ黒騎士の銃弾を真似て――紗雨が力をこめてあった。
その結果、石から発した噴水の水圧で銃身が盛大にブレて、弾丸は明後日の方向に飛んでしまう。
「これぞ――水遁の術。してやったりだサメエ!」
「やったね、紗雨ちゃん。よし、もう一度間合いを詰めるっ」
あとがき
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