第81話 強敵
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西暦二〇X一年に、元勇者パーティ〝C・H・O〟が引き起こしたクーデター騒動において――。
同団体を追放された出雲桃太は、異界迷宮の果てにある異世界クマ国に辿り着き、代表カムロより一つの技を伝授された。
『生太刀・草薙』
一定範囲内の衝撃を増幅させ、一切の防御を無視して任意の標的のみを打ち倒す、文字通りの必殺技だ。
(黒騎士の装甲がどれだけ厚くても、この技なら倒せる)
桃太は〝生太刀・草薙〟を習得した後、恩師の矢上遥花らと共にレジスタンスを率いて〝C・H・O〟を打倒、新たな英雄となった。
「こいつで決まりだ」
だから、空飛ぶ白銀のサメこと、紗雨が水で作った五体の囮人形をことごとく銃弾で撃ち抜かれるも……。
桃太が零距離まで接近し、黒い瞳を青く輝かせながら、衝撃を圧縮させた右手刀を薙ぐように繰り出した時、彼は勝利を確信していた。
しかし、〝狩猟鬼〟を名乗る黒騎士も、鬼面を模したヘルメット奥で左瞳を赤く光らせて、左手のナイフで斬りつけた。
攻撃が交差した瞬間、赤い霧の渦巻く公園内で爆音が轟き――。
額に十字傷を刻まれた少年も、大柄な黒騎士も、後方へと吹き飛ばされた。
「な、不発だって?」
「!!」
黒騎士が背後の排気口から白い煙と赤い霧を吐き出しつつ、重量にものをいわせて着地に成功したのに対し……。
桃太は軽さもあって受け身に失敗し、公園の石畳に叩きつけられてしまう。
(そういうことかっ。〝生太刀・草薙〟は強力だけど、弱点もある。俺の場合、半径二メートルという射程制限があるし、消耗も大きいから連発できない。それに加えて)
どうやら技の出がかりを潰された場合、発動を阻止されてしまうようだ。
(ああ、そうだ。俺は弱い。でも、だからこそ!)
桃太はバウンドしつつも両手を地面につけて、逆立ちからの回転を決めるように着地。
同時に、空飛ぶ白銀のサメが、彼の襟首を咥えて受け止めてくれた。
「紗雨ちゃん、ありがとう。助かった」
「桃太おにーさん、一人で戦うのは違うサメ。紗雨も一緒に戦うサメエ」
紗雨から尻尾に結わえたヒビの入った翡翠の勾玉を託されて、桃太は彼女を腕の中に抱きしめた。
「そうだね、紗雨ちゃん。一緒に戦って欲しい!」
「は、恥ずかしいサメー」
ヒビの入った勾玉が、白銀の光を発しながら修復され……。
「舞台登場、役名変化――〝行者〟。サメイクヨー!」
桃太は白衣に鈴懸を羽織った法衣姿となり、左目の上には、紗雨が変じたサメ顔の仮面を被っていた。
「サメドリル!」
桃太は左手に水をまとわせて掘削器を作り、公園の石畳を滑るようにして加速。黒騎士を速度で翻弄し、銃弾を避けてみせた。
『むふふー、当たらないサメ。いくら〝機械と鬼の力〟を借りても、桃太おにーさんと紗雨の速度には、ついてこられないサメエ』
紗雨もここぞとばかりに挑発するも……。
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘続行!」
黒騎士は合成音声を流すや、長銃を折りたたんで右腕装甲内部に仕舞い込み、背中のランドセルの蒸気機関を音高く稼働させた。
右目を隠す眼帯の絵が弓から槌に変わり、背中から伸びたオルガンパイプ型の排気口と、鋼のブーツから熱気を放出し、地面から浮遊するようにして〝行者〟姿の桃太と並走する。
「〝一目鬼〟って、ギリシャ神話の隻眼の鬼だっけ? いくらハイブリッド技術だからって、いきなりホバー走行を始めるとか、どうなっているんだ?」
「桃太おにーさん。あの黒騎士は腕と鎧、二つの〝鬼神具〟と契約して、二種類の戦闘スタイルを切り替えられるみたいサメ。ち、地球は恐ろしいところサメーッ」
あとがき
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