第814話 悪党なりの美点
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「現場のことをわかってくれていたのは、一葉家と〝J・Y・O〟を牛耳っていた朱蘭の姐さんや、五馬家〝N・A・G・A〟に担がれた碩志坊っちゃんくらいでやんすねえ」
かつて日本政府と冒険者組合に反旗を翻し、クーデターに参加した過去があるキツネ顔の式鬼使い、離岸亜大は、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太に向けて式鬼越しに言いたい放題喋り倒し、満足したのか舌を鳴らした。
「ま、出雲さんはそんな阿呆なことを言いだしたりはしないでしょうが、アンタもリーダーなんだから、物資管理についてはちゃんと把握しておきなさいよ。たぶん、本当の〝副代表〟である、矢上遥花さんに丸投げしているんでしょうが、彼女が倒れた途端に詰みやすよ」
「……勉強になります」
桃太と亜大が式鬼で通話しながら戦っているうちに、二人が力を貸すレジスタンスと、テロリスト団体、〝完全正義帝国〟が擁するパトロール船団との戦いも決着したようだ。
敵兵はほぼ戦闘不能となり、蛇糸で操っていた屍体人形をすべて時間稼ぎ用の囮として放逐すると、一隻だけ残った船にのって、息も絶え絶えに戦場から離脱していった。
「マチョオオオ。今は退くけど、次は絶対にぶちのめすよお。黒騎士は、顔を洗って待っていてね」
「それを言うなら首だろう」
テロリスト達に雇われた傭兵団〝華の刃〟の副長である戸隠サユリも、交戦中の黒騎士相手にあっかんべーをした後、ただひとつ残された船を護衛しながら撤退してゆく。
「紗雨姫、素晴らしい水練ぶりだったマチョ。平和になったらに一緒に相撲を取ろうね。マッチョッチョ」
「戸隠さんこそ、ナイスパワーサメエ。また遊ぼうサメエ!」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、サユリの奮戦に好意を抱いたのか、互いに手を振って見送った。
実のところ、サユリと戦闘不能になったパトロール船団員達を逃したのは、戦闘前の打ち合わせ通りだ。「こちらの動きが読まれても構わない、むしろ、ガッピ砦包囲網の一部を引き寄せたい」という亜大の計略によるものだった。
「復讐。覚悟はしていた、そのつもりだったのだがな」
その作戦を理解してなお、亀甲羅をおぶったサユリの背を見送る黒騎士の背中はどこか小さく見えた。
「……黒騎士、カムロさんは八岐大蛇の戦力に、他人に化けられるコピー能力者がいるんじゃないかと疑っていた。モムノフの里虐殺事件の真犯人は、前進同盟とは限らないはずだ」
桃太は、サユリとの戦いから戻ってきた黒騎士を励まそうと、自らの推理を口にした。
「そう言って貰えると助かる。だが、宝剣窃盗はさすがにいいがかりだとしても、前進同盟の関連団体から嫌がらせを受けていたのは事実だろうし、虐殺の真犯人についても……なんとも言えないな」
だが、やはり黒騎士の気は晴れないようだ。
「傭兵団〝華の刃〟か。出雲……。憎めない相手に、自分が憎まれているのは、胸に痛いな」
気落ちする黒騎士に、桃太は喉の奥まで出かかった言葉を飲み干した。
(黒騎士。嫌っている相手に尊敬できる側面があるのも、悩ましいよ)
桃太は離岸亜大が苦手だ。
彼はアウトローな態度を隠しもせず、やり口さえも犯罪すれすれ。
しかし、軍事作戦の取り組み自体は極めて堅実で、しかもチャンスまで待つのが抜群にうまいときた。
(口もうまいし、冒険者になる前の職業が結婚詐欺師と言われても、確かに納得できちゃうんだよなあ)
桃太は、これまでにないタイプである亜大との距離感に苦心していたが、もはや予断を許さない。
簡単ながら墓を立てて屍体人形を埋葬し、進軍を再開すると、ついに目的地までの目処がたったらしい。
「出雲さん、あの〝転位門〟を抜けたら、半日とかからずにガッピ砦に到着です。しまっていきやしょう」
あとがき
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第一一部の前半はここまで。
かつての敵と組むことになり、味方だったはずの一部のクマ国民が敵に回るレジスタンス編ですが、後半はいよいよガッピ砦救援戦となります。
数日のお休みをいただいた後、一一月二八日より再開します。乞うご期待!





