第80話 ハイブリッド技術の脅威
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西暦二〇X二年、四月一日午後。
出雲桃太と建速紗雨は、東京湾内に造られた人工島〝楽陽区〟北部の公園でデート中、謎の黒騎士による襲撃を受けた。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。状況開始!」
「〝狩猟鬼〟だって?」
黒騎士の口元につけられたマイクから流れ出た、いかにもな合成音を聞いて……。
桃太は先の戦いの後に、恩師の矢上遥花から習った授業を思い出した。
バルバトスとは〝ソロモン七二柱の魔神〟の一体であり、狩人の姿で現れるため――悪魔には珍しく猟銃を構えた姿で描かれることもあるという。
「サイボーグにパワードスーツ、おまけに銃器。カッコイイけど、こんなてんこ盛りって有りかよ……!?」
桃太ら冒険者が探索する〝異界迷宮カクリヨ〟と、その果てにある紗雨の故郷〝異世界クマ国〟は、〝鬼の力〟の干渉で精密機械が作動しない。しかし――。
襲ってきた相手は、身長二メートルに達する大柄な肉体に真っ黒なフルプレートアーマーを着込み、背中にランドセルのような動力機関を積んで、オルガンパイプめいた排気口を背負っていた。
その上、黒騎士の右手は義手化されて、一〇〇センチを越えるライフルが仕込まれているではないか。
「クーデターを起こした〝C・H・O (サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション)〟が、義手や義足のような人体の一部に搭載すれば、銃器も使えるって証明しちゃったし――」
「クマ国じゃ、木炭を使った蒸気機関車が動いているサメ。だから――」
「「この〝狩猟鬼〟を名乗る黒騎士は、〝C・H・O〟と〝クマ国〟の技術を組み合わせている!!」」
桃太と紗雨が気づいた直後、黒騎士はサイボーグ化された右腕から銃身を伸ばし、ダン! という轟音をあげ、赤い霧を引き裂くマズルフラッシュを光らせて、〝鬼の力〟をまとった銃弾を発射した。
「何十キロあるかもわからない板金鎧を着込んで走り、義手に仕込んだ長銃身のライフルで射撃する? あんな重い武具をどうやって使ってるんだ?」
「桃太おにーさん、きっとそのための〝鬼神具〟の義手と、蒸気機関で動く強化鎧だよ。人間以上の〝鬼の力〟と〝機械の力〟で無理やりぶん回してるサメ!」
桃太は紗雨を抱いて横っ飛びに逃れるも、銃撃で背後にあった公園の樹木が抉られ、お椀状のクレーターができた。
「あ、危なかったけど二射目も避けた。どうやら〝狩猟鬼〟の弾丸は〝鬼の力〟によるエネルギー弾じゃなくて、実弾みたいだね。だったら、連発できるものじゃないはずだ」
「サメエ、でもなんかゴソゴソやってるサメ」
謎の黒騎士は左手で右腕の肩部分を弄り、銃の遊底らしきパーツから空になった薬莢を排出しながら、新たな銃弾を装填した。
「ひょっとして、まさかの連発式銃?」
「……!」
黒騎士は肯定するかのように兜を下げて頷くと、右目を隠す弓を描かれた眼帯の隣にある左目を赤々と輝かせながら、ガンガンと銃弾をぶっ放し始めた。
結界で灰色がかった景色とはいえ、静謐だった公園に爆音が轟き……。
紫色のラベンダーや赤いペニチュア、黄色いマリーゴールドといった花が消し飛んで、大地に大穴が刻まれたゆくのを見るのは、心が痛かった。
桃太達は逃げられない。否、こうなった以上、逃げるわけにはいかない。
「ところ構わず銃をぶっ放すテロリストなんて、市街地を巻き込む前に倒すしかない。紗雨ちゃん、援護をお願い」
「わかったサメエ」
額に十字傷を刻まれた少年の言葉に頷いて、銀髪碧眼の少女はぼふんという音を立てて、空飛ぶサメの姿に変わる。
彼女は〝鬼の力〟が宿る異界の兵器、〝鬼神具〟に呪われたことで、人ならざる姿に変身できるのだ。
桃太は着弾で舞う土埃に隠れるようにして走り、紗雨が水で作った人形五体を囮に、黒騎士へ接近した。
「〝生太刀・草薙〟!」
あとがき
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