第811話 亜大の挟み撃ち作戦
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「私たち〝前進同盟〟が清廉潔白とは言わん。しかし、燃える火よりも明らかな冤罪をかぶせられては困る」
「えーい、嘘つきのむくいをうけろ。フルパワーでぶっ飛ばすマチョ!」
漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士と、甲羅を背負った緑髪の河童少女、戸隠サユリはヒスイ河の川辺で取っ組み合いながら、互角の格闘戦を始めた。
「マチョは見た。オウモが、お前と同じ蒸気鎧で武装した兵士たちを連れて、故郷を、モムノフの里を焼き滅ぼすところを、志津梅姉さんと一緒にこの目で見たんだマチョ!」
「その時、私たちは他ならぬクマ国代表のカムロさんに追われていた。彼が証人になってくれるはずだ!」
口角泡をたてて論じ合う二人を筆頭に、クマ国で百万人を殺傷した極悪テロリスト団体、〝完全正義帝国〟と、それに抗うレジスタンスは一進一退の攻防を繰り広げている。
(オウモさんの姿をした真犯人。ひょっとして乂やカムロさんが警戒していた他人に化ける能力者じゃないのか? いや、今は戦いに集中しよう)
桃太は、黒騎士とサユリの会話に気を取られたものの、それどころではないと腹をくくる。
そう、今の状況こそ……レジスタンスの船団を率いるキツネ顔の式鬼使い、離岸亜大の作戦通りだったのだ。
「よし。十分に時間を稼げた。離岸さんそろそろ、紗雨ちゃん達が回り込みます」
レジスタンスに協力する額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、サメの着ぐるみをかぶって銀髪碧眼の少女、建速紗雨の気配を感じて親指を立てた。
「じゃあ、出雲さん。いつも通りにここから詰めにいくでやんす」
亜大が考案した作戦、その真骨頂はここからだ。
彼は今回のような、完全正義帝国のパトロール船団を見つけるや、まずは船一隻、あるいは二隻の戦力を先行させて注意をひき、無警戒となった横腹を別行動していた船に突かせるのだ。
「サーメッメ。人間の視界は基本的に前に集中するんだサメエ。だから、後ろから船底を破るのが効果的サメエ。ふぉーヘッディッドしゃーくアタックを受けるサメエ!」
「「うわああ、ギャグみたいな技なのにひどい」」
紗雨が手足に巻きつけた四つの水ドリルで穴をあけて一隻を沈めたのを皮切りに、奇襲部隊はまさに飢えたサメのごとく、〝完全正義帝国〟の船団に襲いかかった。
「「古典的だが、突き刺し式魚雷の力を見るがいい」」
紗雨の奮戦に呼応するように、船先に機雷がついた長槍をとりつけたボートが突撃して、安全圏にあぐらをかいていた〝完全正義帝国〟の大型船三隻を沈めた。
このように別動隊が側面から奇襲したことで、戦の形勢は一気に変わることになる。
「「うわああ、おたすけえ」」
「「家族がいるんだ、しにたくない」」
最大戦力を失い、前線にとり残された〝完全正義帝国〟のテロリスト達は茫然自失。小型船八隻は大混乱に陥り、尻に帆掛けて一目散に逃亡を始めた。
「マチョ!? もう少し頑張るマチョ!」
この反転攻勢には、サユリも驚愕した。
「せめて志津梅お姉様を酷い目に合わせた、宝剣窃盗犯の黒騎士を倒すまで、持ち堪えて欲しいんだマチョ」
「戸隠さん。私は宝剣など盗んではいないし、簡単には倒れない。このままだと、キミは置いてかれてしまうよ」
黒騎士が、サユリの投げる鉄線をナイフでさばきつつ冷静に告げる。
「でも、先ほどおおかたのボートをひっくり返したから、お前の仲間も追いつけないマチョ」
「そうでもないさ。そのひっくり返されたボートから仲間達を救出した私の親友、いや好敵手が控えている」
そう。レジスタンスにはまだ桃太という切り札が残っているのだ。
「桃太おにーさん、紗雨の力を受け取るサメエエ」
「うおおお、力が湧いてくる。これぞ、我流・〝水長巻〟改め、シャークブレード!」
「二人の愛が為せる技なんだサメエエ!」
桃太は川面を走りながら、サメの顔を模した刃にも鈍器にも見える、全長四メートルを超える大柄な水の武器を顕現させて、船をバリバリと破りはじめた。
「もうサメは勘弁だあああ」
「B級映画の犠牲者になるのはいやだああ」
桃太という抑えのエースが投入された今、〝完全正義帝国〟のパトロール船団が壊滅するのは、時間の問題といえよう。
「ああ、せっかく仇のオウモに繋がる手がかりと出会えたのに、なんでこうなったマチョ」
あとがき
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