第809話 黒騎士、傭兵団〝華の刃〟と向き合う
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(ここは視点を変えよう。オウモさんの動向すら見切るカムロさんが、読み切れない相手は誰だ? それは異界迷宮カクリヨの支配者、八岐大蛇……なんじゃないか?)
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、レジスタンスの指揮官であるキツネ顔の式鬼使い、離岸亜大から〝モムノフの里〟虐殺事件の情報を聞いて、彼らとは異なる見解を見出した。
(以前に戦った七罪業夢さんや四鳴啓介さんも、八岐大蛇の首と呼ばれるドラゴンの力を借りることで、日本政府や異世界クマ国の想定を超えた手を打ってきた。
リッキーの命を奪ったあの野郎……黒山犬斗が化けた一本を除いて、どの首も強大無比だった。戸隠サユリさん達の故郷、達人が揃っていたはずの〝モムノフの里〟を滅ぼした真犯人は、ひょっとして彼らなんじゃないか?)
桃太は悩むものの、亜大は自らの所属するクマ国の反政府団体〝前進同盟〟を疑っているようだ。
彼は嘴が槍のように長い鳥型の式鬼、錐嘴鳥を操り、テロリスト団体〝完全正義帝国〟と、彼らに雇われた傭兵、甲羅を背負う緑髪の河童少女、戸隠サユリと交戦しつつ、肩をゴキゴキと鳴らしてボヤいた。
「なにぶん僕達が参加する前のこと、調べるのにも限界はあるでやんすが……。黒騎士さんや、〝前進同盟〟は、クマ国でいったいなにをやらかしたんでやんす?」
亜大の問いに対し、〝前進同盟〟代表オウモの懐刀である漆黒のフルプレートアーマーを着込んだ黒騎士は、船縁で屍体人形を銃で迎撃しつつ返答する。
「私は今所属している〝G・C・H・O・〟が組織される前は、常にオウモさんと行動を共にしていた。
だからなにもしてない、と言いたいところだが、一時期はとかく拡大に専念していたから、関連組織が何をやったかは把握できていないんだ。
〝前進同盟〟の名を借りて、理不尽な契約を結んだり、ゆすりたかりをくり返していた反社会的な組織は、それなりにいる。ゆえに、私達の知らぬところで嫌がらせ行為があったり、宝剣の窃盗があった可能性もある。
クマ国側が捜査で無関係と判断しているのに、故郷である〝モムノフの里〟を滅ぼしたのは、我々に違いない――傭兵団〝華の刃〟が、そのように我々を恨む理由があってもおかしくはないんだ」
「黒騎士、やまたの……いや、そうなのかもな」
桃太は八岐大蛇の関与を疑っていたものの、黒騎士の疑念を晴らすほどの論拠があるわけではなかった。
状況証拠を鑑みれば、〝前進同盟〟が〝完全正義帝国〟のような危険な組織と誼を通じて悲劇に繋がった可能性だって十分にある。
「オウモさんはオウモさんで、いっぱいいっぱいだったみたいだものね」
オウモは、クマ国代表カムロとコンビを組んで異界迷宮カクリヨの侵略を撃退し、その右腕として知られていた。
しかしながら、長年の付き合いから、カムロが地球、異世界クマ国、異界迷宮カクリヨを断絶する〝三世界分離計画〟を密かに進めていると知って反旗を翻し、焦りのままに無秩序なまでの拡大に走ってしまったらしい。
「クマ国最大最強の守護神たる、あのカムロと張り合うのだ。並大抵のことではない。特に今年の夏は、忙しくて寝る暇すらなかった……」
だが、そんな真相は、桃太を含むごく少数しか知らないことだ。
「それで相手が納得してくれるなら、話は早いんですがね」
「無理だろう。だから、私は彼女にできるせめてものことをしよう」
黒騎士は覚悟を決めたように、背中の蒸気エンジンを回し、高い音を立てた。
「傭兵団〝華の刃〟副団長、戸隠サユリは私が相手をする。出雲達は他の船をたのむ。戦況は悪いが、建速さん達の乗った奇襲船団がやってくるまで、あと少しだ。持ち堪えてくれ」
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