第808話 志津梅とサユリの故郷〝モムノフの里〟の惨劇
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「やっぱり、根来志津梅さんや戸隠サユリさんの言う通り、〝前進同盟〟に殺されたのは事実なのかな?」
「〝前進同盟〟が恨みを買った理由は、どうにもややこしいんでやんす。
傭兵団〝華の刃〟の団員達は、クマ国でも武勇で鳴らした一族が集う〝モムノフの里〟の出身でやすが、……夏頃に他所の里へ農作業手伝いに出ていた女子供十数人をのぞき、住民全員が殺害された。ここまでは事実でやんす」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の問いに対し、キツネ顔の式鬼使い、離岸亜大は、レジスタンスを率いてテロリスト団体〝完全正義帝国〟、と彼らに雇われた河童の傭兵、戸隠サユリと交戦しながら訥々と答えた。
「しかし、クマ国の治安維持組織であるヤタガラス隊が調査したところ、人力では不可能な被害が出ていたため、『異界迷宮カクリヨから迷い出たモンスターの襲撃によるもの』と判断したそうでやんす」
「……え、人間がやったんじゃないの?」
そうであれば、前進同盟が傭兵団〝華の刃〟に恨まれる理由などないではないか?
「出雲さん。そもそも〝モムノフの里〟の住人は、目の前にいる戸隠サユリのような護衛や狩人の達人。引退した者だって手練ればかりでやんす。ごく一般的な犯罪者が挑んだところで皆殺しにするなんて、まず不可能でやんす」
「そうか、逆なのか。人力ではまず不可能な犯罪だからこそ、オウモさんと〝前進同盟〟が志津梅さんやサユリさんに疑われたのか?」
オウモは、クマ国代表カムロの右腕であり、彼女が率いるクマ国反政府団体〝前進同盟〟は〝蒸気鎧〟や〝内部空間操作鞄〟といった強力な〝鬼の力〟を持つ道具を生産する力がある。
……それらを総動員して奇襲すれば、惨劇を実現することも不可能ではないかも知れない。
「ええ。その通りでやんす。元々、〝モムノフの里〟は〝前進同盟〟と傭兵契約で揉めて、村の傭兵達が大事にしていた神木が折られる、聖地である湖を汚される、先祖代々祀っていた〝氷神アマツミカボシの宝剣〟なる宝物が盗みだされるなどの嫌がらせを受けていたそうでやんす。
その上で、数少ない生き残りが当日オウモを現場付近で見かけたことから、〝モムノフの里〟の全滅はモンスターでなく〝前進同盟〟による犯行だと主張し、クマ国政府に殺人事件として捜査してほしいと願い出やした。しかしながら……」
亜大は式鬼を操り、船に迫る屍体人形を絶え間なく撃墜しながら、胸の中にたまった重い空気を吐き出すようにほうと息を吐く。
「クマ国政府は『オウモが率いる〝前進同盟〟が反政府団体なのは事実だが、〝モムノフの里〟から宝剣を盗み出した窃盗犯としても、殺戮を引き起こした大量殺人犯としても認められない』との判断をくだしやした。
その結果、根来志津梅や戸隠サユリは傭兵団〝華の刃〟を結成し、仇討ちを掲げて独自の活動を始めたそうでやんす。
ですが、これだけ執着されるということは、なにかしら彼女達なりの根拠があると思われやす」
桃太は亜大の推測に対し、納得できない重石のような感情を覚えた。
「……そう、なのか?」
桃太は、クマ国代表にして、師匠でもあるカムロが、前進同盟を非常に重く見ていることを知っている。
(あのカムロさんが、厳重にマークしていた〝前進同盟〟に大量虐殺の実行なんてことを許すだろうか?)
かの老幽霊は冷静沈着にして用意周到。〝完全正義帝国〟の反乱についても、かなり早期から備えていたのだ。
八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーターが、死体から量産可能な補給不要の人型兵器、〝屍体人形〟などというトンデモ技術をもたらさなければ、騒動は起こりすらしなかっただろう。
(ここは視点を変えよう。オウモさんの動向すら見切るカムロさんが、読み切れない相手は誰だ? それは異界迷宮カクリヨの支配者、八岐大蛇……なんじゃないか?)
あとがき
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