第803話 完全正義帝国のパトロール船団接近
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「おっと、〝完全正義帝国〟のパトロール船団が近づいているようでやんす」
レジスタンスの指揮官であるキツネ顔の〝式鬼使い〟、離岸亜大は、異世界クマ国コウナン地方を流れるヒスイ河に浮かぶジャンク船の甲板で、嘴の長い二羽の鳥型の式鬼、〝錐嘴鳥〟を右腕に留めて、不敵な笑みを浮かべた。
「離岸さん、もう敵を見つけたんですか!?」
船の上で向かい合っていた額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が索敵の速さに舌を巻く。
コウナン地方北部を支配するテロリスト団体〝完全正義帝国〟は、クマ国政府軍との一大決戦に敗れて弱体化したものの、それでもまだ現地のレジスタンスを圧倒していた。
ゆえに街道や水路を結ぶ〝転位門〟の周辺には警備のパトロール部隊が配置されていて、レジスタンスの拠点、ガッピ砦救援に向かう桃太達は交戦を余儀なくされるのだが……。
(亜大さんは、〝式鬼・錐嘴鳥〟を放って情報取集を怠らないから、会敵する前に敵の配置をすっぱ抜けるんだよな)
桃太も〝斥候〟の役名を担う冒険者として、大地や川の音や風が運ぶ匂いから敵を察知できる能力があるが、複数の式鬼を飛ばせる亜大の方がやはり精度と速度に優るらしい。
「出雲さん。式鬼が本領を発揮するのは平時ばかりではないってことでやんす。集団戦闘でも頼れるところをお見せしますよ」
「サメエ。期待しちゃうサメエ」
桃太と亜大の隣に立つ、サメの着ぐるみをかぶった銀髪の少女、建速紗雨が青い目をキラキラと輝かせると、亜大は自慢するかのようにパチンと指を鳴らして、錐嘴鳥が見てきた光景を空中に投影させた。
「「GAA! GAA!!」」
「これも便利な能力だよね。〝完全正義帝国〟が持つ船はこちらと同規模のジャンク船が四隻と、小型船が八隻。数は向こうが勝るけど、戦力は空飛ぶ屍体人形ばかりだし、これなら問題ないかな?」
桃太は楽観的な予測をするも、亜大は異なる見解らしい。
無駄に自信満々な彼には珍しく、眉間にしわを寄せている。
「中央にいる船甲板の奥にいる緑色のおかっぱ髪の女、わかります? 頭に皿を乗せて、亀の甲羅を背負い、白いワンピースタイプのスイムスーツを着た……いわゆる河童族の女性が映っているでしょう?」
「あ、本当だ。伝承のカッパにそっくり。でも、この水着、地球日本のものに似ているね」
桃太が特徴的なクマ国人を見て目を輝かせると、紗雨が補足した。
「サメエ。カッパ族は伝統的に薄い着物と腰巻で過ごしていたそうなんだけど、最近は地球との交流で、華やかな水着が主流なんだサメエ。でも、あまりにチャラチャラしているのは風紀によろしくないって、年配世代からカムロのジイチャンへ苦情が来るんだサメエ……」
紗雨によるとカムロは『文化や価値観は世代ごとに変わるものだから』と、陳情者達を諌めたと言う。
しかしながら、こういった諍いの積み重ねが、カムロを地球、異界迷宮カクリヨ、異世界クマ国の交流を断ち切る〝三世界分離計画〟へと駆り立てたのかもしれない。
「どこの国も価値観の変化ってやつは難儀でやんすねえ。と、話がズレた」
亜大も愉快そうに会話に参加していたものの、接触まであと少しと迫っていた。
「式鬼が撮ってきた映像に映っている、憎っくきテロ屋……〝完全正義帝国〟の船に乗っているこの女は、戸隠サユリ。最近売り出し中の傭兵団〝華の刃〟の副団長に違いない。いくつものレジスタンス部隊が痛い目にあった強敵ですぜ」
あとがき
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