第79話 黒騎士襲来
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西暦二〇X二年からさかのぼること約半世紀前、西暦一九六一年の秋。
北の軍事大国が行った新型兵器実験の暴走により、後に〝地獄〟と名付けられる、異界迷宮に繋がる〝空間の裂け目〟が出現した。
冷戦中だったユーラシア大陸東側の国々は、異界迷宮カクリヨから這い出した〝悪魔や妖怪に似た怪物達〟との交戦をきっかけに、内部闘争を繰り返して全滅する。
しかし、その後、最前線となった日本国はモンスターの侵攻を跳ね返した。
理由はいくつもあるだろう。自衛隊の奮戦、米軍の支援、残された西側陣営の国々との協力――。
『志ある者は、新しい東京〝楽陽区〟へ集え。この獅子央焔と共に伝説を打ち立てようではないか!』
――そして誰もが認めるのが、日本国の旗頭となって冒険者という民間戦力をまとめ、異界の怪物達を大陸へ押し返した英雄、獅子央焔の存在だ。
焔は、異界の怪物に由来する新たな力、〝鬼の力〟と強力な異界の兵器〝鬼神具〟を発見して使いこなしてみせた。
そうして、さらなる強さを求めて、異界迷宮カクリヨへと挑んだのだ。
初代勇者パーティと謳われる冒険者一党が怪物の軍勢を打ち破り、さまざまな資源を持ち帰ったことで、日本は右肩上がりに発展、高度経済成長を遂げた。
「ここは、その〝英雄〟獅子央焔が、東京湾の内側に造った人工島、東京第二四区〝楽陽区〟だ。日本で一番安全な場所だぞ。モンスターが外から入ってこれるはずがないし」
人工島は、最初期には大規模避難シェルターとして建造されただけあって、鉄壁の防衛力を誇り、冒険者組合の本部や、日本最大規模の育成学校が存在する重要地区となっている。
「紗雨ちゃんの言うような世界をズラす〝時空結界〟を張ったなら、犯人は人間だ。元勇者パーティ〝C・H・O〟の残党か!?」
桃太は自身が狙われたこと、また結界を張られ、銃弾と思われる攻撃を受けたことから――。
昨年一二月にクーデターを起こして壊滅した、日本政府指定のテロリスト団体〝C・H・O〟の構成員であると判断した。
「桃太おにーさん、変な匂いと音がするサメ。気をつけて!」
「紗雨ちゃん、わかったよ。なんだこれ、霧なのか?」
先ほどまで青空の下、桜舞う陽気だった公園は、まるで赤ペンキをぶちまけたような真っ赤な霧によって閉ざされていた。
「おまけにシュウシュウ、アイロンみたいな音を立てて、落ち着かない!」
桃太は今朝、紗雨とのデート前に薄紅色のストライプシャツにかけた加熱音を思い出した。そんな彼の一言が、紗雨が敵の技術を見抜くキッカケとなった。
「桃太おにーさん、この音と熱はきっと蒸気機関サメ!」
「なんだって!?」
次の瞬間、赤い霧の中から全身をフルプレートアーマーに身を包んだ、身長二メートルはあるだろう、真っ黒な騎士が飛び出してきた。
「舞台登場 役名宣言――〝黒騎士〟!」
黒騎士が、エコーがかった声で名乗りをあげた瞬間、あまりに濃厚な鬼の気配に、桃太が宿す〝巫の力〟が発動し、黒い瞳が青く輝いた。
「す、凄いな。ただの板金鎧じゃないぞ。背中に背負っているランドセルとオルガンパイプみたいなパーツは、紗雨ちゃんが言う蒸気機関。そして、両腕は鷹舟俊忠が使っていた〝茨木童子の腕〟と同タイプの〝鬼神具〟――機械義手か!」
鬼の仮面を模したヘルメットを被る黒騎士は、右目を弓が描かれた眼帯のようなもので隠していたが、肯定するように左目を赤々と光らせ、右腕を伸ばしながら一〇〇センチを越える長銃を見せつけた。
口元につけられたマイクから、いかにも合成音といった声が流れ出る。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。状況開始!」
「〝狩猟鬼〟だって? サイボーグにパワードスーツ、おまけに銃器。カッコイイけど、こんなてんこ盛りって有りかよ……!?」
あとがき
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