第800話 七罪業夢捕縛後の六辻剛浚
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「俺たちが共犯者である七罪業夢さんを倒した後、――六辻剛浚は、元勇者パーティ〝K・A・N〟の残党を吸収した――って聞いたけど、それから彼とクーデター軍にいったいなにがあったというんだ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の問いかけに対し、漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士は彼の知らぬその後を語る。
「出雲の言う通りに情勢は進んだ。
しかし、六辻剛浚は七罪業夢ほどの政治力も、部下達からの支持もなかったようでな。クーデター軍唯一の独裁者となった後は、少数の身内ばかりを贔屓して贅沢三昧。国を思って決起した勇士達の熱意も、際限のない野心に身をこがすヤマ師どもの欲望も、どちらを満たすことも叶わなかった。
一葉朱蘭さんを筆頭に、離岸亜大や晴峰道楽が去り、クマ国の反政府組織〝前進同盟〟や冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟へ寝返ったのもこの頃だ」
「ついでに、僕が剛浚のもとでくすぶっていた有能なメンバーを引き抜きやした。ほら、役に立つでしょう。褒めてもいいんでやんすよ」
亜大はここぞとばかりに裏切りの際にあげた自分の功績を誇り、胸を高々とはってみせる。
(いや、それって節操がないって自白しているも同然では?)
桃太は亜大に対し、苦手意識をぬぐえなかったものの、剛浚達の方がより邪悪なのもまた間違いない。
黒騎士曰く、クーデター軍の重鎮が次々に討たれ、あるいは捕縛される中、剛浚はひたすらクーデター軍領袖の地位に執着し続けたのだという。
「六辻剛浚は、異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟に、本城と二つの城、無数の砦で構成された難攻不落の城塞、〝三連蛇城〟を築いて、まるで冬眠中の熊のようにこもっていた。だからこそ、自分だけは安全だと盲信していたのかもしれない」
黒騎士は、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟が、代表である石貫満勒の指揮の元、二つの支城を落として、本命である獰蛇城に王手をかけるまでの苦闘を、短いながらも簡潔に要約して語ってくれた。
「あのストーカー、ごほん。石貫満勒さんって、意外にやるんだなあ」
桃太にとっては、級友の祖平遠亜や、柳心紺にちょっかいをかけてくる性格の悪いマッチョという印象が強かったが――、黒騎士の語る彼は、パーティ代表として尊敬できる点が多々あった。
「サメーッ。ムラサマちゃんは、一〇〇〇年前から生きている付喪神だったんだサメエ。おでんさんやみずちさんもそういうところあるし、あの好戦的な性格もわからなくないサメエ」
また、紗雨にとっては、やはり一度、手も足も出ずに負けたムラサマのことが気になるようだ。
「冒険者組合代表の獅子央孝恵が後援する冒険者パーティ〝W・A〟の別動隊として動いていた、幸保商二さんや東平孔偉さん達の活躍もあって、クーデター軍もほとんどが捕縛され、残すは本丸だけ――。のはずだったんだがな」
これまで誇らしげに語っていた黒騎士の声音が、急に苦々しいものに変わる。
「私や満勒達、〝G・C・H・O・〟の仲間が、いざ城の本丸に攻め込むや……。総大将の六辻剛浚はクーデター軍の同志そのすべてを囮として使い捨て、たった一人でクマ国に逃げ去った。そして、持ち逃げした財貨を〝完全正義帝国〟に売って地位を得たというわけさ」
あとがき
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