第796話 ジュシュン村の防衛成功! しかし
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「はっ、テロリストども、毒を撒こうだなんて堕ちたものだな。ここはひとつ、レジスタンスのエース、離岸亜大が、新たな勇者、出雲桃太サマの前で点数稼ぎと行きますか。舞台登場 役名宣言――〝式鬼使い〟!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太らレジスタンスと、異世界クマ国で百万人を殺傷し、今また毒をばら撒こうとするテロリスト団体、〝完全正義帝国〟が激戦を繰り広げる中……。
離岸亜大を名乗るキツネカオの式鬼使いと、彼が率いる五〇人のレジスタンスメンバーが、戦闘へ加わった。
「まずは〝錐嘴鳥〟で空から攻撃して頭を抑え……」
亜大は、部下に矢を射させつつ、呪符を投げて式鬼を召喚。
長いくちばしの生えた怪鳥の群れを空中で旋回させながら、紙の翼から鋭利な針を射出し――。
「次に地上から剥き出しの横腹をなぐる。〝尾黒狗〟、決めろ!」
地上からは、尾が異様に長く黒く染まった犬がいなないて、咆哮を黒い雷に変化させて照射。上空正面と地上側面の二方向から敵軍を挟み撃ちにする。
「これぞ必勝の陣形ってね!」
「「くそ、くそおおお。レジスタンスごときにいいいっ」」
「「GAAA!?」」
亜大が宣言した必勝の陣形というビッグマウスもあながち嘘ではなく、〝完全正義帝国〟過激派の兵士達と、彼らが操る空飛ぶ屍体人形をまたたくまに撃破した。
「尾黒狗、最近コウナン地方で契約したという式鬼か。あの結婚詐欺師め、ヒヤヒヤさせてくれる。だが、今回ばかりは助けられたな」
桃太の側に立つ、漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士が肩をなでおろし。
「すっごい連続攻撃なんだサメエ」
サメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨も無邪気に飛び跳ねている。
「……あれ、は」
だが、式鬼使いの手際の良さが、桃太に過去の記憶を呼び覚ませた。
(離岸亜大! 片方の式鬼が八本足の虎から尾の黒い犬に変わってるけど、あの戦い方は間違いない。俺が焔学園に転入する前、図書館の帰り道で陸羽ちゃんを襲ってきたのはコイツだ)
桃太は、離岸亜大の戦い方に覚えがあった。
なにせ、かつて桃太の切り札である〝生太刀・草薙〟まで使わせた式鬼のコンビネーションと酷似していたからだ。
「そう、また〝前進同盟〟が邪魔をするの。ですが、これ以上の交戦は無理ですね。退路はアタシと傭兵団〝華の刃〟切り開きます。雇い主のみなさんは今すぐ後退を!」
志津梅も、もはや戦闘続行不能と判断したのだろう。腕から生えた猛禽類のものに似た翼をはためかせて飛翔。
「傭兵、置いていくなあ!」
「我々を見捨てるつもりかあ!」
「なんで一緒に死んでくれないんだ、この裏切りものおお」
「……貴方達からは一銭も受け取っていないので、足を引かれるのは、ごめん被ります」
自業自得の末路を迎えた自殺志願の過激派を放置して、穏健派をまとめて離脱していった。
「根来静梅、待て。お前の家族を殺したのはいったい……」
「黒騎士さん、でしたか。特に死の匂いがする貴方は、気に入らない。必ず首をとってみせます」
最後まで戦場に残った女傭兵が去ったことで、桃太達は過激派を捕縛、〝完全正義帝国〟からジュシュン村にこもる仲間と捕虜を守り切った。しかし。
(援軍は心強いけど、率いてきたキツネ顔の男は陸羽ちゃんを襲った犯人の可能性が高い)
桃太は仇敵らしき男との再会に複雑な表情を浮かべ。
「ふええん。あと少しだったのに、勝ちきれなかったサメエエ」
紗雨は、以前に敗れた付喪神ムラサマと同じ古神流の使い手に対し、リベンジを試みたものの成功したとはいえず。
「〝前進同盟〟に恨みを持つ女、根来志津梅、か。姉と家族を失ったと言っていたが、私の知らないところで何があったというのだ」
黒騎士は両の義手を割れんばかりにギシギシと音を立てて握りしめる。
三人はジュシュン村の防衛にこそ成功したものの、勝利の味は甘くはなかった。
あとがき
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