第794話 膠着の打破
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「八岐大蛇から貰ったという蛇の糸も使っていないのに、貴女が背負った葛籠の中で銃撃を代行している人形は、いったい何、あるいは誰なんだサメエ?」
銀色のサメに変身して地中を泳ぐ建速紗雨の問いに対し、テロリスト団体、〝完全正義帝国〟に雇われた赤髪の傭兵、根来志津梅は背負った葛籠の中にいるマネキンめいた人形の腕を操り、拳銃を発砲で応じた。
「紗雨姫、茶色い地面に銀色の背鰭が見えていますよ」
「それはサメ映画のお約束ってやつなんだサメエ。……あぶなっ」
志津梅が本当に人形を操っているのか、それとも紗雨の推測とおり、人形が共に戦っているのだろうか。真相は不明だが、いずれにしても神業めいた技量の持ち主には違いあるまい。
なにせ銃弾は山肌の下草に紛れた、小さな紗雨の背鰭をも捉えて掠めたのだから。
「も、問答無用で撃つとか志津梅さんはロマンがわからないんだサメエ!?」
紗雨は、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女に変身して、地面の中から飛び出した。
「紗雨姫のご慧眼とロマンを求める姿勢には、恐れ入ります。ですが、自分よりも強い相手に種明かしをしたり、ましてや手加減をする気なんてありませんよ」
志津梅は待っていましたとばかりに、ライフルを撃ち放って、紗雨の肩を撃ち抜くも、ぴしゃんと音を立てて水飛沫に変わる。
待ち伏せを警戒し、身代わりの囮人形を先に射出したのだ。
「必要ないサメエ。つかまえたあとで、聞き出すサメエ」
「アタシを殺すと言わないところが、なんともお優しい」
紗雨は這うような前傾姿勢で突撃し水の糸を放つも、志津梅もまた葛籠に潜む人形の拳銃と、自らが投げる鉄線で応戦し、相殺される。
「だったら、サメビーム!」
「この翼はかざりではありませんよ。その技はまっすぐ進むから、上空に逃れれば当たらない! 貴方一人で〝アタシ達〟に勝てますか?」
紗雨はサメっぽい水流を発射して追撃するも、志津梅は腕の翼を生かして空を舞って回避。
一対一、あるいは一対二? の戦いは、目まぐるしく変わるものの、お互いがお互いを倒す決め手に欠けていた。
「できるサメエ。紗雨だって、一人で戦っているんじゃないんだサメエ」
しかし、紗雨は自信満々であり、彼女の予測通りに膠着はついに破られた。
高々と昇った太陽の下、待ちに待ったパートナーと、色んな意味で複雑な戦友……。
すなわち額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、漆黒の全身鎧を身につけた黒騎士がついに到着したのだ。
「紗雨ちゃん、お待たせ。我流・直刀」
「志津梅さんとやら、詳しい事情を聞かせてもらうぞ。雷の矢よ!」
桃太は衝撃波をまとった蹴りを放ち、黒騎士が雷の矢で追撃する。
「……無念。突破されましたか」
しかしながら、志津梅は慌てず騒がず鉄線で盾を作って蹴りを受け流し、葛籠から伸びた人形の手で拳銃弾を放って雷の矢を相殺した。
「俺と黒騎士の二人が相手なのに、根来さんは強いなあ」
「だが、建速さんと合流したことで三人だ。この距離なら倒せる」
あとがき
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