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第789話 サメ娘 対 鳥人の銃使い

789


「桃太おにーさんと黒騎士はやらせんサメエ! サーメーキーック!」


 サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめが放った飛び蹴りは、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟が雇った狙撃手、根来志津梅ねごろしづめを吹っ飛ばし……。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、ターゲットである黒騎士の命を奪う寸前に、銃撃を中断させた。


「アタシとしたことが、戦に我を忘れるなんて……」


 〝死銃使い(ガンスリンガー)〟の役名を持つ敵狙撃手はどうにか受け身をとったものの、ダメージが大きかったのかよろよろと立ち上がり、仇討ちを阻んだ闖入者ちんにゅうしゃへと向き合った。


「紗雨姫」


 そこにいたのは、喪服のような黒一色の着物を着て、人一人が入るほどに巨大な葛籠つづらを背負い、燃えるような赤い髪をショートに整えた、紗雨より少し年上の女性だ。

 なにより特徴的なのは、腕から羽衣に似た猛禽類の翼が生えていることだ。


「その姿と根来という姓。志津梅さんは多くの医者や護衛を輩出したことで有名な、姑獲鳥うぶめの一族サメエ? クマ国人がなんで〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の味方をするんだサメエ?」

「……他ならないそのクマ国が、アタシの家族を守ってくれなかったからです」


 紗雨が問いかけると、志津梅は暗い瞳で答える。


「志津梅さん。貴方に何があったか知らないけれど、今は大人しくするサメエ。こうも近づけば、ライフルなんて撃てないんだサメエ」


 紗雨は得意の柔術を生かして拘束しようとすると、眼前ににゅっと銃口が飛び出した。


「紗雨姫。残念ですが、このように接近された場合を想定し、拳銃だって持っています」

「さ、サメエエ!?」


 紗雨は志津梅が唐突に現れた拳銃を見て、慌てふためいた。志津梅が背負う葛籠の中からマネキンめいた人形の手が伸びて、無骨な拳銃の引き金に指をかけていた。


「紗雨ちゃん、逃げて!」


 桃太は紗雨の危機を察知して、隠れていたしげみから飛び出し。


「紗雨さん。根来志津梅が使っている銃は、南部大拳。西暦一九〇二年頃に南部麒次郎が設計し、大陸へ輸出された大型自動拳銃、あるいはそのレプリカだ。危険だから下がってくれ」


 同時に走り出した黒騎士は、漆黒のフルプレートアーマーという重装備にもかかわらず、桃太と並走しながら拡声器で声をはりあげ警告する。


「桃太おにーさん、ここで退いたら二人が危ないんだサメエ。黒騎士さん、戦闘中にディープな情報を教えられても困るんだサメエ!」

「紗雨姫。御身に銃を向ける不敬をお許しください」

 

 志津梅は、背から伸びた人形の手を用いて発砲し、紗雨に直撃。しかしながら、サメ少女の体は、水となって散った。

 どうやら、蹴っ飛ばした直後に〝身代わり〟とすりかわっていたようだ。


「サーメッメ! 水遁すいとんの術サメエ。変幻自在のサメに銃なんて当たらないんだサメエ!」


 本物の紗雨は、志津梅の背後にある茂みの奥から姿を現し組み付こうとした。


「ええ、銃撃は外しました。ですが、もうひとつの技は当たっています」


 しかしながら、志津梅が繰り出した攻撃は、南部大拳の銃撃だけではなかった。

 金属製の細いワイヤーロープを投げつけ、紗雨の修道服を連想させる袖口をすっぱりと切っていたのだ。


「でも、それはそっちも言えることサメエ」


 同時に、志津梅が身につけた喪服めいた黒一色の着物の袖が、紗雨の攻撃を受けていたのか千切れ、はらりと森の下草へ落ちる。


「まさか、アタシの攻撃が見抜かれていた?」


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