第788話 修羅道を征く女
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「いかん、不発だ。さすがに事前準備が必要かっ!」
漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士は、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太から得た情報を元に、自らが持つ銃弾に梵字を刻み、雷の術をこめて撃ち放つも失敗に終わった。
「え、うそっ」
しかしながら、テロリスト団体、〝完全正義帝国〟に雇われた燃えるような赤い髪の傭兵、根来志津梅は同じやり方で返されたことに気づいたのだろう。
彼女の声色に恐怖の色が混じり、銃声の音が露骨に増えた。
「黒騎士。地球にかぶれた〝前進同盟〟の参加者だけあって色々とお詳しいのですね。それとも鎧の中はクマ国人ではなく、地球人なのでしょうか。どちらでも構わない。アタシはただの復讐鬼……、お前たちに大切なものを奪われた傭兵団〝華の刃〟の同志と共に修羅道を歩み、その王を目指す者。仏心など期待しないでください」
志津梅の殺意に比例するように、森の中を跳弾する銃弾の数が増えた。
が、その分精度が落ちたのか、あるいは慣れか、桃太と黒騎士は避けるにとどまらず、どうにか衝撃刃で切り払って前へ進むことができた。
「跳弾は確かに恐ろしいけど、何度も反射することで、威力は落ちているみたいだ。黒騎士、このまま接近しよう」
「待て、トー……出雲。相手の手札が反射だけとは限らない。今戦っている相手は、それほど甘い相手ではない」
桃太は走り出そうとするも、黒騎士が止める。そして、彼の懸念は正しかったようだ。
「死んで、くださいっ」
志津梅が三丁の村田式連発銃から新たに撃ち放った弾丸は炎をまとい、まるでビームのように赤い光の尾をひいて木々を貫きながら、雨のように降り注いだ。
桃太は、黒騎士が後ろから襟首を掴んだことで直撃は免れたものの、燃え落ちる倒木の火花に炙られて、冷たい汗を流した。
「うおおおっ、危なっ。反射だけじゃなくて貫通もできるのか」
「志津梅さんは反射、貫通、速度変化といった特殊な銃撃を使い分けてくる上に、こちらが遠距離攻撃をしようとしても、それを更なる攻撃に利用してくる。距離をとって相対するにはなんとも悩ましい相手だな」
桃太達と黒騎士は仮に飛び道具で反撃しても、跳弾やら何やらで撃ち返されて逆に不利になることを思い知らされている。
「背を低くして進むしかないか、あちこち薮や草が刺さって痛いなあ」
「こちらは鎧のせいで腰と手足が痛い。重武装はこういう時に不便だなあ」
やむを得ず、二人は下草や薮にひそんで銃弾をやり過ごしながら、匍匐前進でじりじりと前へ進むことを余儀なくされた。
「アタシは貴方達の首を墓前に備えて、家族の復讐を遂げる! 必殺の二四連発を受けなさい!」
志津梅はそんな二人に対し、必殺の意志をこめて銃のひきがねを引き、いままさに本懐を遂げようとした瞬間。
「ちょっと待つんだサメええええ。紗雨のことを忘れちゃ困るんだサメエエ!」
彼女が桃太と黒騎士に意識を集中するあまり、死角となっていた方角から、空飛ぶ銀色のサメが飛び込んできた。
交戦に夢中になるあまり、その場にいた全員の意識から外れていた謎の怪生物は、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨に変身して狙撃手を蹴り飛ばす。
「桃太おにーさんと黒騎士はやらせんサメエ。サーメーキーック!」
あとがき
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