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第787話 梵字を使った戦闘術

787


「出雲、近くに彼女が撃った銃弾が埋まっているだろう。確認してくれ。

 阿修羅王あしゅらおうを意味する梵字ぼんじが刻まれている。この文字を媒介に、あらかじめ威力をあげる術や、速度を変える術、反射する術をこめているんだろう。

 不可思議な跳弾で我々の攻撃を反射したり、一般的なサイボーグ兵の銃弾なら斬れる出雲の衝撃刃が逆に打ち破られるのは、弾丸が特別製だからのようだ」

「それって、まさか……。田楽おでんさんと同じ技術か!」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、漆黒のフルプレートアーマーを身につけた黒騎士から、テロリスト団体、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟に雇われた傭兵、根来志津梅ねごろしづめが用いている技術の正体を知り、驚きの声をあげた。


「トー……出雲。こんな時に冗談はよしてくれ」


 桃太の叫びは、事情を知らぬものにとっては意味不明だったちめ、黒騎士はしばし言葉を失った。

 彼からすれば、田楽おでんという特徴的な人名は、およそ料理の名前にしか聞こえないだろう。


「黒騎士。ジョークみたいだけど、ウメダの里に田楽おでんさんっていう、カムロさんと互角に戦える実力者がいるんだよ。その話は長くなりそうだから後にするけど、彼女は文字を刻むことで様々な術をブーストできるんだ」

「お、おおっ、そうだったのか。それにしてもクマ国由来の技術かっ。奥深いな」


 桃太と黒騎士は、ここに至ってようやく志津梅が使う、不可思議な射撃手段を解明する手がかりを見つけた。

 

「なるほど、根来さんは銃弾に手を加えて、特殊な射撃術を実現しているのか。黒騎士、弾丸に刻まれた梵字が意味する〝阿修羅王あしゅらおう〟って、やっぱり鬼の王様なのか?」


 桃太がも危うくクリーンヒットしかけた銃撃を横っ飛びでかわしながら、かつて親友、呉陸喜と過ごした頃のように、疑問を投げかけた。

 黒騎士は思うところがあったのか、右の義腕に仕込んだ長銃に装填する銃弾を取り出し、なにやらナイフで工作しつつ丁寧に答えた。


「いいや、れっきとした仏様だ。

 一説によれば世界最古の宗教、ゾロアスター教における善の最高神アフラ・マズダを源流とし、インド神話ではインドラを筆頭とする神々に敵対するアスラとして悪役に貶められるものの、仏教では対立していた神々と共に仏法の守護者となった。

 そして密教においては、本来の神格を取り戻し、宇宙の中心たる大日如来だいにちにょらいと同一視される場合もある」

「な、なるほど、詳しいな。そういった謂れのある仏様なのか」


 桃太がうんうんと頷きながら回避に集中するのに対し、黒騎士はようやく工作を終えた弾頭を仕込み銃に装填し、狙いをつけた。


「さきほど出雲が教えてくれた、銃弾に文字を刻んで術を発動させる手法は、地球の技術で例えるなら、外付けのUSBメモリにアプリやプログラムを入れて動かすようなものだろう。蒸気鎧の拡張機能と、〝鬼神具・茨城童子いばらぎどうじの腕〟の力を使えば、私にも模倣できそうだ。弾頭に、〝阿修羅王アスラ〟の好敵手である〝帝釈天インドラ〟の梵字を書き込んで、電磁網に使う雷の力をこめた。これで撃ってみよう」


 黒騎士は早速、見様見真似で加工した銃弾を打ち込んだものの、銃弾が雨のように降り注ぐ環境では、梵字を正確に刻むことすらままならない。

 その上、まだまだ術の詳細が把握できていないからか、くすんだ雷を発するのがせいぜいだった。


「いかん、不発だ。さすがに事前準備が必要かっ!」


あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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