第785話 謎のガンスリンガー
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西暦二〇X二年一二月一一日昼。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と共闘する少年、漆黒のフルプレートアーマーを身にまとう黒騎士は右の義腕から銃をひきだした。
彼は桃太が掘った塹壕の中から、森の中へ照準を合わせて、テロリスト団体〝完全正義帝国〟が雇った〝死銃使い〟の役名を担う傭兵を狙い撃つ。
「うそ、だろう。アイツ、銃弾を狙撃したああっ」
しかしながら、信じられない神技で迎撃されてしまい、衝撃のあまり、危うく右腕の銃を取り落としかけた。
「銃弾で銃弾を撃ち落とす、そんなことできるの?」
桃太は囮を引き受けて、一時は自らが掘った塹壕の外に出ていたものの、尋常ならざる状況を知って、黒騎士の側へ舞い戻った。
戦場であるジュシュン村周辺は、〝完全正義帝国〟の過激派がばら撒いた毒ガスに汚染されており、拡散する前に踏み込めば、吸い込んでしまう危険があるし……。
なにより、黒騎士のカウンター狙撃が失敗した以上、下手に地上をうろちょろしては、一方的に狙い撃たれるばかりだからだ。
「普通はできない。私もやれと言われれば頑張るが、そうそうできるものじゃない。〝死銃使い〟の役名を持つものよ。貴様はいったい何者だ」
黒騎士が口元のマイク音量を最大に大きくして、機械音声で問いかけると、意外にも返答が返ってきた。
「傭兵団〝華の刃〟団長の、根来志津梅。〝前進同盟〟の黒騎士、お前達のせいで姉の奏桜を、家族を失った者よ」
「私たちが、家族の仇だというのか。恨みを買う理由なんて、……あり過ぎて数えられないな」
「おいっ!」
桃太は思わず「そんなにあるのかよ」とツッコミを入れようとしたものの、黒騎士が所属する〝前進同盟〟が地球、クマ国問わず、あちこちの反政府組織を支援していたことを思い出して頭を抱えた。
(今、俺たちが戦っているテロリスト団体〝完全正義帝国〟だって、元は〝前進同盟〟の参加者だしなあ……)
桃太が悩んでいる間にも、黒騎士は志津梅と会話しつつ、兜に仕込まれた赤い視覚素子を光らせて、声の出元を探っているようだ。
「出雲。〝死銃使い〟が隠れているのは、およそ二〇〇〇メートル先の森。
姿は見えないが、三丁の銃器を地面に固定して使っているようだ。
おそらくは西暦一八八九年に製造されて、大陸へ輸出された二二年式村田連発銃。あるいは、そのレプリカの改造品だ。
オリジナルの装弾数は八発だから、並べて撃てばさっきのように二〇発だって撃てるのだろう」
「黒騎士の目、そこまで分析できるんだなっ」
桃太は黒騎士の遠視能力には感嘆したものの、彼の発言自体には首を傾げた。
「でも、ちょっと待ってくれ。志津梅さんは、三丁も同時に使って狙撃したのか? そもそも異世界クマ国では、サイボーグ手術なしに生身で銃を使うのは、八岐大蛇の呪いで無理なんじゃないのか?」
「そのはずだが、私にもわからない」
桃太の疑問はもっともだったが、黒騎士にも詳細は掴めないようで、力無く首を横に振った。
「出雲。根来志津梅は、先ほどの役名宣言を聞く限り、鬼には堕ちていないようだが……。〝死銃使い〟なんて特殊な役名を担うんだ。なにかしらクマ国で銃器を使える、特殊な抜け道を持っているのかもしれん」
「了解。戦いながら探るしかないか。ともかく距離を詰めないと」
あとがき
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