第784話 神技の銃撃
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「た、助かった。しかし、信じられん。この盾は、三世界でも屈指の技術力をもつオウモさんが、異界迷宮カクリヨ産の鉱石を、地球の高張力鋼生産技術で錬鉄し、異世界クマ国の術式で完成させた傑作だ。それをこうも容易く撃ち抜くなんて!?」
背中にオルガンパイプ状の排気口とエンジンを背負い、漆黒のフルプレートアーマーを身につけた黒騎士は、〝完全正義帝国〟の攻撃で、自慢の盾が破られたことで、機械音声ながら動揺を隠せないようだ。
「黒騎士、見てくれ。二〇発の弾丸がほとんど同時に着弾し、ほぼ同じ箇所を射抜いている。役名宣言の時に〝鬼神具、祟り鉄砲〟と言っていたけれど、敵の狙撃手、〝死銃使い〟とやらは、義手や義足にアサルトライフルやマシンガンでも仕込んでいるんじゃないか?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、先ほど必殺技の〝生太刀・草薙〟で作った塹壕に身を潜めながら、推察を口にする。
彼らが今いる異世界クマ国は、八岐大蛇の呪いによって、銃器などの精密機械が動作しない。その呪いをすり抜ける数少ない裏道が、人工の腕や脚に取り付けるサイボーグ手術である。
「出雲、サイボーグ手術だって万能じゃない。義手や義足という限られたスペースしか使えない以上、大量の弾丸を使う機関銃のような大型装置を組み込むのは困難だ」
されど、黒騎士は実際にサイボーグ手術を受けただけあって詳しく、桃太の推察には首を横に振った。
(そういえば、黒騎士。さっき俺のことをリッキーみたいに、トータと呼んだ気がする。聞き間違いか?)
桃太は黒騎士の正体に改めて迷いを抱いたものの、今はそれどころではないと、胸の中に押し込んだ。とはいえ、押し込みきれず顔色に出ていたかも知れない。
「でも、昔リッ……。ごほん、俺の親友がミリタリー雑誌を片手に、小さなマシンガンみたいな銃があると言っていたよ」
「ああ、チェコスロバキアが開発したVz61スコーピオンのような、全長二七センチの機関拳銃と呼ばれる銃器もある。だが、小さいだけあって命中精度や有効射程に欠けるんだ」
黒騎士も気づいているのか、いないのか。つとめて事務的な事実確認に終始している。
確かに〝死銃使い〟は、ジュシュン村を中心とする戦場からかけ離れた森の中から、狙撃を決めていた。さすがに小型銃器では無理があるだろう。
「何より、〝祟り鉄砲〟は地球日本の伝承だ。
戦場で不吉を呼ぶ銃器の総称であり、時に怪異譚となって武士や兵士たちを恐れさせた。
だとすれば、第二次大戦以前の銃器である可能性が高く、新しい兵器であるアサルトライフルやサブマシンガンとは考えられない、な、なんだっ!?」
「我流・長巻! くっ、止められないっ」
桃太の回想に対し、黒騎士は旧友を相手にするように穏やかに応じるものの、その直後に一発の銃弾が飛来。
桃太は衝撃刃で防ごうと試みたものの、防ぐこと叶わず、黒騎士の兜側面がえぐりとられた。
「まさか、穴の中まで当ててくるだなんてっ。こうなったら俺が囮になる。黒騎士、カウンター狙撃はできる?」
「任せろ。戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟っ。戦闘続行!」
黒騎士は、桃太が穴の中から飛び出して、銃撃を間一髪でかわした直後……。
右の義腕から長銃を引き出して、兜に仕込まれた視覚素子で、黒服を着た狙撃手を把握して狙い撃つ。
「目には目を、銃弾には銃弾を。思い知れ!」
「……」
されど、黒騎士が放った銃弾は敵を貫く前に、敵の狙撃手から放たれた弾丸と衝突し、乾いた音をたてて弾け飛んだ。
「うそ、だろう。アイツ、銃弾を狙撃したああっ」
あとがき
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