第778話 新たな盤面
783
「黒騎士、敵が毒物を使う心配がある以上、昼の援軍を待っている時間はないよ。まとめて殴って大人しくさせよう」
「了解だ、出雲。すでに敵戦力の中核は失われ、残りも内ゲバの真っ最中だ。この勢いならやれる!」
西暦二〇X二年一二月一一日午前。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、エンジンとオルガンパイプめいた排気口を背負うフルプレートアーマーを着た黒騎士は、抜群のコンビネーションで、テロリスト団体、〝完全正義帝国〟が投入した全長三〇メートルに達する巨大な屍体人形、スーパールイツァリの破壊に成功。
「村には近づけさせないよ!」
「レジスタンスの皆は、昼に援軍が到着するまで、待っていてくれ」
「「わかりました!」」
二人はそのまま敵部隊を掃討としようと、レジスタンスメンバーがこもるジュシュン村を後に、背中合わせで走り出した。
「自爆攻撃などやめろ。ダンキン将軍を巻き込むな」
「虜囚の辱めを受けさせるくらないならば、諸共に死のう」
一方、切り札たるスーパールイツァリを失った――〝完全正義帝国〟の構成員たちは、あくまで捕虜の奪回を目指す穏健派と、毒を使ってもろともの自爆攻撃をもくろむ強硬派に分かれ、同士討ちを始めてしまう。
結果、桃太達レジスタンスと合わせて、三つ巴の乱戦となるも――仲間割れを始めた敵であれば、無茶をせずとも捕縛できるはずだった。
「おい傭兵団〝華の刃〟の〝死銃使い〟よ、仕事だ。〝前進同盟〟から、我々を守れ」
しかし、穏健派のリーダー格らしいサイボーグ兵が、過激派と取っ組み合いながら、義足に仕込んだ銃を空に向けて発砲し、叫んだ一言が状況を一変させる。
「承りました。前金は既にいただいています。あの全身鎧を着た男が〝前進同盟〟代表オウモの懐刀、黒騎士であることはこれまでの戦いで明白。一日千秋の思いで待ちかねた復讐の機会がやっときた。射線に入ったら、諸共に殺しますのでご容赦を!」
「「え? ぎゃあああっ!?」」
ジュシュン村を囲む森の中から、目を焼くような光が発して、四名の過激派がもつ毒瓶を撃ち抜く。
「「馬鹿野郎ーっ。誰を撃っている!?」」
「「毒が、毒があっ。ふざけるなーっ!!」
結果、傍迷惑なテロリスト達は、自分たちがばら撒こうとした毒ガスを至近距離で浴びて、自業自得とばかりに悶え苦しんだ。
これで終わればよかったのだが、狙撃手の殺意は言うまでもなく、桃太と黒騎士にも向けられている。
「〝鬼神具・〝祟り鉄砲〟よ、我を呪え。
舞台登場 役名宣言――死銃使い!
我が恨み、ここで雪ぐ!」
さらに役名宣言と共に、ひときわまぶしいマズルフラッシュがたかれ、二〇発もの銃声がとどろいた。
(あ、やばい)
瞬間、桃太の脳裏をよぎったのは、かつて自分を奸計にかけた四鳴啓介が無理やりに操る呉陸羽が手にしたナイフであり――。
撃退したはずの鬼勇者、七罪業夢が変生した八岐大蛇、第七の首ドラゴンヴァンプが降らすスライム状の血の雨であり……。
ウメダの里の顔役、田楽おでんが繰り出す、数々の必殺技だった。
すなわち、当たれば死ぬ。
「いけない。トータ、私の盾に隠れろ!」
「黒騎士。ダメだ、それでは足りない。切り札を使う――〝生太刀・草薙〟!」
桃太と黒騎士は、ジュシュン村を囲む森の中から響いた二〇発もの銃声に対し、即座に防御行動をとった。
「なっ」
黒騎士は脇に抱えていた盾を前面に展開するも――、間断なく着弾した二〇発の銃弾が、ぶあつい装甲を雨だれ石を穿つとばかりに貫通した。
されどその直後、桃太が右手を振り下ろすと同時に放った、敵味方識別可能な衝撃の嵐がすべての銃弾を叩き落とし、地面に大穴をあける。
二人は、必殺技で作った簡易の塹壕に隠れることで辛くも命を拾ったのだ。
「た、助かった。しかし、信じられん。この盾は、三世界でも屈指の技術力をもつオウモさんが、異界迷宮カクリヨ産の鉱石を、地球の高張力鋼生産技術で錬鉄し、異世界クマ国の術式で完成させた傑作だ。それをこうも容易く撃ち抜くなんて!?」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)