第777話 レジスタンスのまとめ役、その正体
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西暦二〇X二年一二月一〇日夕刻。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、テロリスト団体〝完全正義帝国〟の地霊将軍ダンキンをくだしたあと、漆黒のフルプレートアーマーで武装した黒騎士から聞かされた真実に、驚きのあまり目を見張った。
「トー……出雲。驚かずに聞いてほしい。〝完全正義帝国〟の虐殺に抵抗するレジスタンスのまとめ役、ドランケン・フレンジーの正体は、かつて日本政府と冒険者組合に対してクーデターを引き起こした、元勇者パーティ〝J・Y・O〟の代表、一葉朱蘭だ」
「それって、四鳴啓介さんの叔母さん? 指名手配中の重犯罪者じゃないか。見つからないと思ったら、〝前進同盟〟に参加していたのか。オウモさんが隠していたんだなっ」
一葉朱蘭は、甥である元勇者パーティ〝S・E・I〟代表の四鳴啓介と組んで、日本国が開発した異世界対応型の新型電力プラント、神鳴鬼ケラウノスを奪いとったばかりか、電気異常を発生させて日本国中に甚大な被害を出し……。
桃太自身も彼らの奸計にはめられて、一度は危うく命を落としかけた過去がある。
「出雲。以前、命を狙われたことを気に病んでいるのだろうが、およそ半年前に、出雲と焔学園二年一組を襲ったのは、四鳴啓介の独断だ。一葉朱蘭の意図ではない」
「それは、そうかもしれないけどさ」
桃太は、黒騎士と共闘して陸羽を救出した後、眼前で果てた啓介の儚い横顔を思い出す。
『私は物心着いた時から、ずっと勇者として認められたかった。だから手段を選ばず、力を求めた。……そして、出雲君、キミの活躍に嫉妬した。建速さん、キミが仲間を鼓舞する姿を憎んだ』
啓介は、〝百腕鬼の縄〟〝和邇鮫の皮衣〟、〝蛇髪鬼ゴルゴーン〟、〝神鳴鬼ケラウノス〟という四つもの鬼神具を手にして、『世界皇帝になる』などというイカれた欲望を叶えようとしたが、〝鬼の力〟に飲まれて横死した。
(啓介さんは、自身のコンプレックスを内心では恥じていたと思う。だから、俺を暗殺する為に、他家の力を借りたとは思えない)
桃太は、亡き親友、呉陸喜を殺めた黒山犬斗のことは今でも憎んでいるが……。
自身を狙った四鳴啓介に対しては、陸羽を利用したという一点を除いては、それほど恨みを抱いてはいなかった。
「サメエエ。でもそれって、先に四鳴家と〝S・E・I〟がやっただけで、一葉家と〝J・Y・O〟が桃太おにーさんを狙っていた可能性だって、あるんじゃないかサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が問いかけると、黒騎士はあっさりと頷いた。
「言われてみれば、紗雨ちゃんの言うとおりだ。あの酔っ払いのことだから、暗殺まではいかなくても、一度や二度、攻撃を仕掛けていてもおかしくない」
「おかしくないのか!」
桃太は思わずプレートアーマーに平手でツッコミをいれ、黒騎士も甘んじて受け止める。
「出雲、ここはこらえて欲しい。〝J・Y・O〟の〝鬼勇者〟だった一葉朱蘭も、彼女の部下である〝式鬼使い〟、離岸亜大も、なぜかつるんでいる〝執事〟の晴峰道楽も、揃って悪人だが……優秀なんだ。今のレジスタンスは彼らがいないと立ち行かないだろう」
あとがき
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