第76話 新たなる英雄の誕生
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西暦二〇X一年一二月二九日。
クリスマスから四日後、桃太は異界迷宮カクリヨを上層まで昇り、懐かしい和邇島から地球日本へ帰還した。
日本海の孤島は、東京を焼いたテロリスト団体〝C・H・O〟の本拠地を攻略した出雲桃太を一目見ようと、カメラを構えた記者や、民間人でごった返していた。
「は、遥花先生。なんですか、これ?」
「桃太君、胸を張って。貴方が命をかけて守った場所よ」
桃太は、恩師である矢上遥花に誘われるがまま、群衆の前へと一歩を踏み出した。
「わああああああああっ」
その途端、雷のような喜びの声と、大波のような拍手が孤島を震わせた。
「視聴者の皆さん、聞こえますか、この歓声が?」
「ここ和邇島に、獅子央焔を継ぐ新たな英雄が生まれました!」
桃太は、想像もしなかった状況に目を白黒させた。
「出雲、出雲、我らが英雄よ!」
「よくぞクーデターを止めてくれた!」
「貴方のおかげで家族が戻ってきた!」
桃太は、自分を取り巻く声に圧倒されて……。ようやく亡き友に胸を張れるのだと実感した。
「リッキー、俺はやったよ」
けれど、彼はまだ知らない。
自分が成し遂げたことの大きさと、踏み出した荒野の広大さを。
「待っていたよ。新しい英雄殿」
桃太の手を、胸に薔薇の飾りをつけた、オレンジ色の髪をツーブロックにまとめた白スーツの青年が掴んだ。
「貴方は?」
「私は勇者パーティ〝S・E・I 〟の代表、四鳴啓介という。これから戦勝パレードが始まるんだ。案内しよう」
桃太は、異界迷宮カクリヨには不似合いな服装のやや浮世離れした青年、啓介に手を取られて地上へと帰還した。
「さあ、英雄の凱旋だ!」
☆
西暦二〇X一年、一二月下旬。
劣等生のレッテルを貼られて追放された、出雲桃太率いるレジスタンスが秘密基地を攻略し、千曳の岩を止めたことで勝敗は決した。
日本政府は、司令塔を失った元勇者パーティのテロリスト団体〝C・H・O〟の残党を平らげて、大晦日までにクーデターを収束させた。
国会議事堂に集まった議員達は胸を撫で下ろしたに違いない。
「奥羽以遠より、議員の皆様に御報告いたします。傀儡だった代表、三縞凛音は戦闘中に行方不明となり、事実上の戦死。
主犯格とされる副代表、鷹舟俊忠もレジスタンスとの交戦中に戦死。もう一人の主犯と目される、幹部の黒山犬斗ですが……」
黒山は警察病院に収容された後も、どうにか罪を免れようと嘘をでっちあげ、様々な政治工作を行っていた。
『わしは無実だ。ただ巻き込まれただけの、エリート官僚なんだあ』
しかし。
「黒山犬斗が主導者であったことを証明する、証人を連れてきました」
「そいつが命じた悪事の指示書を、あるだけ集めてきた」
「呉、林魚っ、貴様ら、この恩知らずがあああっ」
「「お前に怨みはあっても、恩はない!」」
異界迷宮カクリヨ奥地から奇跡の生還を果たした呉栄彦や、レジスタンスに参加した林魚旋斧が次々に証拠を提出したことで、黒山の悪あがきは水泡に帰した。
「……内乱の首謀者ゆえ、極刑は免れないでしょう。新たな英雄である出雲桃太氏は、レジスタンスのまとめ役であった矢上遥花氏と共に、勇者パーティ〝S・E・I 〟に、外部協力員として所属することが決まりました」
「それは良い知らせだ」
「もう人が死ぬ心配はないのだな」
「何を甘いことを。事態が収束した以上、我々野党は、この前代未聞の不祥事を厳しく弾劾してゆくからな」
「そうだ。今こそ議席獲得、いや政権奪取のチャンスだ!」
奥羽以遠は、議場で早くも胸を撫で下ろす与党議員に失望し、犠牲者を悼むことなく政局に利用する野党議員に絶望した。
(勇者パーティ〝S・E・I 〟は、戦いの口火こそ切ったものの、何かしらの戦果をあげたわけじゃない。国を守ったのは警察と機動隊だし、〝C・H・O〟を倒したのは出雲君らレジスタンスだ。四鳴家は帰還した彼を迎えたことで、無理やり自らが勝利者だと喧伝している。ここから先は荒れるぞ)
あとがき
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