第772話 忍者の〝奥の手〟
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「ダンキン将軍は、生身で空を飛ぶのかっ。技の冴えも、八大勇者の一人だった七罪業夢さんに勝るとも劣らないぞ」
「イッツ、クレイジー! 〝鬼の力〟があるといえ、蒸気バイクを相手に、ここまで接近戦をやれるとはっ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、右顔に張り付く仮面となった相棒、五馬乂の〝風の力〟で威力を増幅させた衝撃刃と、色とりどりの宝石で着飾った壮年の巨漢ダンキンが砂とガス状の攻撃端末〝砂丘〟で作り上げた槍が激突し、火花が散る。
「キョキョキョ。クソガキどもめ、空飛ぶバイクは珍しいが、それがどうした? わしは、異界迷宮カクリヨでそのようなモンスターを刈り取ってきたのだ」
ダンキンの恐るべきところは、桃太達が空飛ぶバイクに乗っているにもかかわらず……、彼自身もまた砂とガス、二つの形態からなる攻撃端末〝砂丘〟を使って空を飛び、的確に応戦していたことだろう。
「出雲桃太よ、先ほど〝陸竜人形〟を仕留めた黄竜螺旋掌は凄まじかった。しかし、あれほどの大技を使ったのだ、もはや貴様にはたいした力は残っておるまい。じゃが、わしは違う、我が切り札たる〝砂丘〟には、まだまだ余裕がある。砂とガスがおりなす地獄へと落ちるがいい!」
ダンキンが槍を振り回すたびに、〝砂丘〟が撒き散らされ、ガスが桃太の呼吸から体内に侵入、砂が皮膚から侵食し、少しずつ体から力を奪い、動きを鈍らせてゆく。
「貴様達の死体はっ、我が〝陸竜人形〟を再生するための、材料に使ってやる。とっととくたばれい」
「悪いが、ごめんだっ」
「テイクイットイージー!」
そうしてダンキンが勝利を確信し、高笑いしながら止めを刺そうとするも、桃太と乂は奥の手を使った。
「「変身解除」」
すなわち変身を解除することで、二人は一瞬だけ光の粒子に変わって分離。
「……ど、どういうことだ? たしかに今切ったはずっ」
ダンキンが渾身の力で振りぬいた刃は、誰もいなくなったバイクのシート上を空振りする。
着飾った巨漢は、槍の石突から発するジェット噴射にひきずられながら、泥まみれの湿地でたたらを踏んだ。
「我流・直刀」
一方の桃太は、ストライプシャツとズボンが泥に汚れるのも構わず、沼地に着地すると同時に蹴り技で応戦。
「シャシャシャっ、、ハットトリックにこだわるあまり、ストライクゾーンを見誤ったようだな」
上半身裸の上に漢道と記された革ジャンパーを着た金髪赤眼の姿に戻った乂はバイクに着地して、器用にターンし突撃を再開する。
「くっ、ガキどもめ、直撃だったはずだ。どうやって避けた?」
合体変身を解除し、役名が〝忍者〟から、〝斥候〟と〝二刀剣客〟に変化したことで、二人をむしばむ砂とガスによる毒めいた呪いも解除された。
地上を走る桃太と、空飛ぶバイクに乗った乂は、上下左右から変幻自在のコンビネーションでうろたえるダンキンを攻め立てる。
「乂、サッカーと野球をごたまぜにするな。それはそれとして、柳さんが担う役名、〝砂丘騎士〟と似た力を使っているんだ。このひとも、今でこそ〝完全正義帝国〟に参加したと言え、裏切る前はオウモさんが率いる〝前進同盟〟の参加者だろう? 役名〝忍者〟の〝奥の手〟を、変身が解けるってことを、知らなかったのか?」
あとがき
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