第770話 力を合わせて
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「サーメっメっ。川を壊したのが悪いんだサメエ。おっきなドラゴンが、落とし穴にドボンだサメェ」
「驚いたかしら? 黒騎士のアイデアで、ワタシの未来予測を生かし、イタル君が選んだ奇襲地点で、紗雨ちゃんとみずちさんが地盤をゆるめておいたのよ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、彼女の肩に乗る三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、全長四〇メートルに及ぶ巨大な兵器、むしろ怪獣ともいうべき〝陸竜人形〟を転倒させ、湿地帯に沈めることに成功し、飛び跳ねながら喜んだ。
「GAAA!?」
どれほど巨大な体躯を誇ろうとも、動けなくては意味がない。
怪獣は威嚇するように吠えながら、泥を波たたせるものの、起き上がることは叶わなかった。
「さっきその〝陸竜人形〟がブレスで堤防をきったでしょう。その水を使えば、小細工するのは簡単だったわ」
「肉体が巨大であればこそ、一度倒れた時、立ち上がるのは困難でしょう。もしも人間ならどうということはないでしょうが、全長四〇メートルは大きすぎましたね」
セーラー帽をかぶった水色髪の付喪神、佐倉みずちと、黒髪褐色肌の女装少年、芙蓉イタルが補足する。
「紗雨ちゃん達が罠を仕掛けているのが見えたからね。うまく誘導できた」
「さすが相棒、さっきから挑発的な戦闘を繰り返していたのは、地盤を崩すための前振りってわけか」
かくして、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の右顔に張り付く仮面に変身した少年、五馬乂は、仲間達のアシストを得て、絶体絶命の窮地から活路を切り開くことができた。
「まだだ。まだ終わりではない。力さえあれば、すべてを食らえる。八岐大蛇・第六の首ドラゴンリベレーター様が与えてくれる技術には無限の可能性があるのだ!」
その一方、テロリスト団体〝完全正義帝国〟を率いる地霊将軍ダンキンは、切り札たる〝陸竜人形〟の性能に慢心するあまり、その限界に気づいていなかった。
「どれほど強い力を持っていても弱い部分は必ずあるはずだ。まずは視覚素子を、次に足を奪わせてもらおうか!」
「GAAA!」
黒騎士は、暴れる〝陸竜人形〟の瞳部分を右腕と一体化した銃で撃ち抜いたあと、肩パーツから電撃網を連続で射出して太い足を拘束。
「黒騎士さんに続いてください!」
「「うおおおおっ」」
イタルの指揮に従ってジュシュン村のレジスタンス達が、紗雨や凛音の放つ水弾や火弾とタイミングをあわせて矢を放つ。
「桃太おにーさん、やっちゃうサメ」
「乂、格好いいところ見せてよねっ」
「まっかせて!」
「引導を渡してやるぜ!」
桃太と乂は、少女達の声援に手を振って川辺の湿地帯に埋まった全長四〇メートルに達する怪物〝陸竜人形〟との決着をつけるべく、空飛ぶバイクを向けた。
「乂、あれをやるぞ」
「オフコース、ご期待にお答えしてド派手に行こうか」
二人は、オルガンパイプに似た排気口から白煙をたなびかせ、垂直ではなく水平に回るタイヤで泥に濡れた地面を波うたせながら疾走。腰に挿していた赤茶けた短剣から〝鬼の力〟を引き出し、黄金色に輝かせた。
「必殺、黄竜螺旋掌!」
桃太の右手のひらから発した風と、乂が操る黄金の短剣から放たれる光が、二重螺旋を描きながら、黄金の龍を象って飛翔する。
「GAAAAAA!?」
風と光はリンコールを呑み込み、莫大な〝鬼の力〟を焼き尽くして小山のごとき大柄な肉体ごと粉砕した。
「あああ。わしの〝陸竜人形〟がっ。都市一つ分の死体が必要で、そうそう創れるものではないのだぞ。おのれおのれおのれえええっ」
あとがき
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