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第767話 ダンキンが伏せていた切り札

767


 西暦二〇X二年一二月一〇日夕刻。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたと、彼の右顔に張り付いた仮面に変身した少年、五馬乂いつまがいの二人は、空飛ぶバイクでジュシュン村周辺の森や河原にたむろするテロリスト団体〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の悪党どもを退治しつつ、愉快な青春を満喫していた。


「いやっふー。空飛ぶバイク最高!」

「おらおら悪党どもが、道をゆずれ。相棒、このまま〝鬼神具・深森悪霊レーシーの宝玉〟をぶっ壊し、ダンキンの野郎をはっ倒すぞ!」


 桃太達がバイクを振り回すたびに、死体を材料に作られた人形兵器と、それを操るサイボーグ兵が跳ね飛んでゆく。


「「ぐわあああっ!」」

「「GAAAAA!?」」


 桃太と乂の活躍を見たジュシュン村にこもるレジスタンス達は奮起し、弓矢や術で前線を支援する。


「桃太様、乂様に続け!」

「我々にだってできることはあるはずだ」

「敵を足止めしろ。お二人が少しでも戦いやすいよう、手助けするんだ!」


 そんな風に若者達が青春を満喫し、と抵抗勢力が士気を大きく向上させる一方……。


「くそ、ただでさえ屍体人形が足りなくなっているのに、これじゃ大赤字だ」

「ハズレ現場にもほどがある」


 テロリスト達は、死体を使った兵器製造のために民間人を虐殺するという下劣非道な悪事をしでかしながら、なにひとつ成果をあげられないことに絶望し、戦場をあたふたと逃げ回りながら、お通夜のように真っ暗となっていた。


「ダンキン将軍、わが方の被害は甚大。かくなる上は人狩りは一時諦めて、退却すべきです」


 側近が、作戦指揮官である地霊将軍ダンキンに退却を進言したのも無理はない。

 桃太達はすでに〝完全正義帝国〟のサイボーグ兵四〇人を戦闘不能においこみ、空飛ぶ天使に似せた〝兵士級人形ソルダート〟六〇体に加えて、虎の子である砲撃専用の〝騎士級人形ルイツァリ〟四体を撃破と、壊滅的打撃を与えていたからだ。

 しかしながら、ダンキン将軍は恰幅のよい巨体をぶるぶる震わせ、標本骨格のようにシンプルな軍服をかざる色とりどりの宝石で揺らしながら、進言を却下した。


「キョキョキョ、何を怯えている? 今までの戦いは、クマ国代表カムロと戦うための、情報収集にすぎん。そのために、都市ひとつの死体を材料に使う〝陸竜人形リンコール〟をすっと温存していたのだ。出雲桃太がリノーを破った時には、奴の隣に空飛ぶ戦闘艦トツカがあったと聞いている。だが、今ここにはない」


 ダンキンが指を鳴らすと、彼の切り札たる〝鬼神具・深森悪霊レーシーの宝玉〟が隠匿ガスの噴霧や砂壁の建築をやめて、全長四〇メートルに達する巨大な地を這うドラゴンに取り憑いた。


「それに、わしがリノーから預けられた〝陸竜人形〟は特別製よ。〝鬼神具・深森悪霊レーシーの宝玉〟が生み出す〝砂丘デューン〟……鬼が宿る砂で体表を補強し、体内にガスエネルギーを注入することで、従来以上のパワーを発揮するのだ」


 ダンキンの大言壮語に応えるかのように、怪獣めいたドラゴンはビルのような足を動かして、森の木々を踏み潰しながらジュシュン村へと進撃を始める。


「相棒、くるぞ!」

「〝陸竜人形リンコール〟、ついに動き出したか」

あとがき

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