第765話 桃太、合体変身する!
765
「トー……。いや、出雲桃太。私は〝前進同盟〟の一員だが、今、この時は共に戦おう」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、時に敵として戦い、時に味方として共闘した好敵手である、黒騎士の呼びかけに勢いよく頷いた。
「ああ、一緒に戦おう。黒騎士が味方になってくれるのなら百人力だ。よし、今こそ反撃のチャンス、ここは変身だ!」
桃太が決意を固めるのを見て、川を挟んだ向かい側で戦う……、サメの着ぐるみをかぶった銀髪の少女、建速紗雨が、青い瞳を輝かせる。
「桃太おにーさん。わかったサメエ。今、そっちに向かうサメ」
紗雨は桃太と共に〝融合術〟を用いて合体変身をする気満々だったが、彼女の目論見は盛大にハズレてしまう。
「乂、やるぞ」
「ガッチャ! 相棒。リンはちょっと待っていてくれよ」
「もう仕方がないわね。久々の再会だし、シートは譲るわ」
なぜなら桃太が手をとったのは、紗雨ではなく、彼女の幼馴染。空飛ぶバイクに乗って、いつの間にか接近していた金髪赤目の少年、五馬乂だったからだ。
「え、そっちっ。ここは紗雨の出番じゃないのかサメエ!?」
紗雨は頬に両手を当ててもんどりうったものの、桃太と乂は彼女を気に留めることはなかった。
「「さあ、タンデムの時間だ!」」
桃太がシートへ導かれた直後、乂は黄金の蛇に変身して、一度光の粒子となった後、ヘビ顔の仮面となってパートナーの顔に張り付いた。
「「舞台登場、役名変化――〝忍者〟ああっ。ヒアウィゴー!」」
桃太の瞳が青く輝くや、衣服が黒装束へと変化し、腰帯に差した短刀が太陽の如き光を発する。
「さあ、一緒に戦場を楽しもうぜ!」
そして、やたらハイテンションな二人分の大声と共に、バイクから衝撃波が生じて荒れ狂い、渦巻く暴風がヒスイ川の支流すらも逆流させた。
「「な、なんだ、この力は……ッ!」
テロリスト団体〝完全正義帝国〟のサイボーグ兵士たちはヤケになって応戦するものの、次の瞬間には肝を冷やす羽目になる。
「「嵐をみせてやるっ!」」
桃太と乂が一体化した〝忍者〟がバイクで走るところ竜巻が発生し、銃弾や砲弾すらも天高く舞い上げたからだ。
「こ、これが、我らが裏切った〝前進同盟〟代表、オウモの言っていた〝巫の力〟なのか!?」
「クマ国にあだなす者を討つという、大自然の怒り。実在していたのか!?」
「「う、うわぁあああ!」」
テロリストたちは悲鳴を上げて逃げ惑うが、竜巻は川の水もろとも彼らをも呑み込み、天高く吹っ飛ばす。
「動揺するな! 我々には〝兵士級人形〟がまだ三〇体残っている。あれらを盾にバイクを撃ち落とせ」
歴戦の指揮官である、地霊将軍ダンキンがすぐさま対応策を講じたものの……。
「そうはいかない。瑞風螺旋脚、バイクモード!」
「シャーッシャッシャッ! サメ子みてるーっ? 今から相棒と二人で新技をやっちゃいます」
桃太と乂が悪ノリしつつも力を合わせて、バイクをコマのように回転させながら突撃したことで、防衛策はたちまちのうちに破綻した。
テロリストたちが操る屍体人形の首が一斉に宙を舞い、残った肉体も爆発四散したからだ。
「「GAAAA!?」」
紗雨は桃太と乂の活躍を見守っていたものの、彼女の背中は小さくなっていた。
「ううう、これが賈南ちゃんが言っていた〝NTR( ネトラレ)なんだサメエ。〝WSS( わたしがさきにすきだったのに)〟なんだサメエ……」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)