第75話 朋友
75
「オレは凛音を連れて、一度クマ国へ帰るよ。一〇年前の真実もわかったし、オヤジや瑠衣姉さんの仇も討った。相棒がここまで引っ張ってくれたおかげだ」
「俺こそ、乂がいなければ、どこかで死んでいたよ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、金髪の不良少年、五馬乂とがっしと握手を交わした。
(三縞代表……)
桃太の目に、乂の左腕に抱かれた三毛猫が映る。〝ホルスの目〟と〝千曳の岩〟、二つの〝鬼神具〟を使い、鬼の力に蝕れた代償だろうか?
三縞凛音は、かつての乂や、建速紗雨と同様に人間の肉体を維持できなくなり、猫の姿となっていた。彼女の目と耳も、深く傷ついたままだ。
「どうしたんだ? 相棒だって、親友の仇を討ったんだろう。大団円じゃないか。いったい何が不満なんだ」
「仇を討ったから、かな。ずっと考えてたんだ。俺と三縞代表たちと何が違うんだろうって、俺の戦う理由は復讐だったのに」
「そりゃあ。全然、違うだろう」
桃太の迷いに、乂はあっけらかんと答えた。
「相棒、こいつはカムロの受け売りだがな。
目的が手段を肯定するんじゃない、手段が目的を担保するんだ。
出雲桃太、胸を張れよ。
お前はオレ達と一緒に、お天道さまに恥じない、正道を進んだんだ」
桃太は頷いた。世の中には色んな正義があり、色んな価値観がある。
けれど、踏み外してはならない道も、きっとあるのだ。
「サメサメ。悪い事をして強がっても、何も良いことないサメ。結局、もっと悪いやつに利用されるちゃうサメ」
紗雨も目を覚ましたらしく、桃太の膝を枕にごろごろと転がった。
「もっと悪い奴、か。俺は弱いからさ、八岐大蛇なんて、どうすればいいのかわかんないよ」
「シャシャシャ。相棒、そりゃあこうするんだよ」
乂が桃太の手を掴み――。
「力を合わせるから、大きいことができるサメ」
紗雨が手を伸ばして、二人の手の上にのせた――。
「一本の矢では折れるとしても、三本の矢は折れないって?」
「毛利ナンチャラの逸話だな。それでダメなら百万ほど集めてみるか?」
「むふー、数じゃないサメ。乙女心は無敵サメ」
着ぐるみ少女は、十字傷の少年に抱きついて頬擦りした。
「紗雨ちゃん……」
「桃太おにーさんは、きっとカムロのジイチャンが探していた人サメ。でも、そんなこと関係なしに紗雨はおにーさんの事が大好きサメ」
「ありがとう、紗雨ちゃんがいてくれてよかった」
桃太は紗雨を宝物でも抱くようにそっと触れて、やがて彼女の体温を確かめるようにギュッと抱きしめた。
「お熱いことで。紗雨のことは、任せる。サメ映画とか見せてやってくれ」
「サメメェ。デートにいくサメ」
「うん、地球にも、見せたいところ、一緒に行きたいところが山ほどあるんだ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)