第756話 冴え渡るドライビングテクニック
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「どうよ、相棒。サメ子。〝騎士級人形〟だったか。まずは一体、邪魔な戦車キメラをぶっ壊してやったぜ」
「ワタシと乂のコンビネーション、貴方達にも負けていないでしょう?」
金髪赤目の少年、五馬乂は、上半身裸の上に羽織る、『漢道』とデカデカと刺繍した革ジャンを風になびかせながら、巧みなバイク運転でテロリスト団体〝完全正義帝国〟を蹴散らした。
彼が親指を立てるや、その首に巻き付いた三毛猫に化けた少女、三縞凛音も前足を突き出してガッツポーズを決める。
「さすがは乂だ。やるうっ。記録動画で見たけど、怪我した腕はもう大丈夫なんだねっ?」
「オフコース! 温泉治療が効いたぜっ。クソジジイに式神で連絡動画を送ったら、手と腰に悪いから病み上がりで飛燕返しは使うなと怒鳴られたけどなっ」
「手はともかく、腰というのはよくわからないけど……。そんな風にあとさき考えないから小言を言われるんだサメエ。脳みそ筋肉なガイはともかく、冷静果断なリンちゃんが来れば百人力サメェ」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
これに対し、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も同じように腕を天に振り上げて応え、和やかに言葉を交わした。
「ほう、アレは、わしらが元いたクマ国の反政府組織、〝前進同盟〟が子飼いの冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟に供給したという、蒸気バイクか」
〝砂丘支配者〟という特殊な役名をもち、〝鬼神具・深森悪霊の宝玉〟が操る砂とガス状の端末〝砂丘〟を使って姿を隠した地霊将軍ダンキンは、まさかの闖入者に苦虫を噛み潰したような声をあげる。
「わしの使う〝砂丘〟と同じく、オウモめが開発した兵器であれば、警戒せねばならん。だが、どうやって手に入れた?」
「ダンキン様、クマ国に残る〝前進同盟〟の生き残りが、蜂起したレジスタンスに協力しているという噂は本当かも知れません」
彼の隣に立つサイボーグ兵士も、勝ち確だと驕っていたところに、まさかの戦力が乱入に冷や汗を隠せない。
「なるほど、アレについても情報収集が必要そうだ。しかし、所詮は地を這う虫けらにすぎん。〝兵士級人形〟で頭上から攻撃すればイチコロだろう。やれ!」
「ダンキン将軍の命令が出たぞ。やっちまえ」
「見えない空からの攻撃はかわせまい」
そうして〝完全正義帝国〟のサイボーグ兵士たちは義手や義足に仕込んだ鉄砲を撃ちつつ、クマ国民の遺体からつくりあげた、空飛ぶ兵器〝兵士級人形〟をあやつり、乂の走る前方に向けて投げ槍を雨あられとあびせかけた。
「たしかに、オウモさんが作ったバイクならそうかもな。だが、こいつはカムロのクソジジイが、あのひとへの対抗心で作り上げた逸品だ、一味違うのさ」
されど、乂は焦ることなく急ブレーキをかけ、前輪を支点にくるりとコマのように一八〇度回転するジャックナイフターンを決めて、対地攻撃を華麗に回避成功。
「「GAAAA!」」
続いて、獅子の頭、ヤギの胴体、蛇の尾を持つ戦車に似たキメラ〝騎士級人形〟が口からは炎の砲弾を、たてがみからは雷を、蛇の尾からは雹弾を射出するも……。
乂は、卓越したバイクテクニックで小刻みに進路を変えてつつ、ジュシュン村に放置された毒餌入りコンテナなどを盾にして、流れ弾ひとつ受けることなく突破する。
そうして勢いのままに、オルガンパイプに似た排気口から白煙を吐き出して、前輪をあげたウィリー走行で疾走。遂には川面の上、空へと跳躍した。
「バカめ、そんなことをしても落ちるだけだ」
「そいつはどうかな?」
あとがき
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