第754話 砂とガスの闇を切り裂く光
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「……なんとか、しないとっ」
「サメーっ、負けないんだサメエ」
西暦二〇X二年一二月一〇日午後。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨は異世界クマ国のジュシュン村で毒罠にかけられた民間人を救出したところ……、実行犯であるテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の襲撃を受け追い詰められていた。
「……コウカ砦から情報のあった、役名〝行者〟に変身されては厄介だ。このままチャンスを与えず圧殺しろ」
必死であがく桃太と紗雨に対し、ダンキンは黄色い砂状の兵器端末、〝砂丘〟が持つ二種類の攻撃形態……〝変色竜霧〟を使った迷彩からの奇襲と、〝餓鬼砂壁〟を用いた鉄壁の防戦を随時切り替えながら、サイボーグ兵に間断なく銃を撃たせ、屍体人形を槍を持たせて的確に投入してくる。
(俺と紗雨ちゃん、二人だけだと手が足りない。
みずちさんに前へ出てもらうか。おでんさんに匹敵する強さを持つ彼女なら、ダンキンだって抑えられるかも?
……ダメだ。そうなると、彼女が守っているイタル君とレジスタンスメンバーが全滅しかねない)
つまるところ、八方塞がりだった。
「く、こんな時、エロ本があれば、乂とリンちゃん呼べるかも知れないのに」
「道行の河原には落ちていなかったし、さすがの行商人も、この非常時だと売っていなかったサメエ」
桃太と紗雨は、多少言動に難はあったも、頼れる相棒、あるいは幼馴染である少年とそのパートナーがいればと願わずにはいられなかった。
「地球で勇者などとおだてられた若造と、クマ国などという異界の小娘め、我が〝鬼神具・深森悪霊の宝玉〟と〝砂丘〟の強さを思い知ったか。所詮この世は、強き狩人と狩られる獲物しかおらんのよ。キョキョキョ、きゃーっはっは」
〝変色竜霧〟の能力で隠れたダンキンが、いずこからか下品な声をあげる。
「ダンキン将軍のおかげで、こっちは無敵も同然だ」
「このままやれば勝てる。〝騎士級人形の砲撃は、当たればバラバラだぞ」
二人は奮戦するものの、高い防御能力を誇る〝餓鬼砂壁〟を破るには手数が足りず、次第に追い込まれてしまう。
ただでさえ、圧倒的な数の差がある上、敵な一方的な攻撃が可能なのは致命的だった。
「シャーッシャッ!」
されど、その嘲弄を断ち切るように特徴的な笑い声が響き渡る。
次の瞬間、ジュシュン村を包囲する軍勢の外、川上から一台のバイクで突っ込んできて、ガスで見えない兵士を跳ね飛ばしたではないか!?
「「ぎょええええっ!」」
バイクに乗った少年は、いずこからか聞こえる悲鳴をききながしながら、は騎兵隊がごとくに大型のバイクをぶん回す。
「ソーリーっ、なにか当たったかな? あいにく見えないからさあ。エロ本だったら回収しないと。シャーッシャッシャッ!」
「……もう、ワタシがいるのに、しばくわよ」
「きゅ」
直後に余計な一言を言って、首に巻き付いた三毛猫に首をしめあげられるというなんとも情けない登場ではあったが、その瞬間、ジュシュン村の空気が変わった。
「「ああーっ! こ、この笑い声はまさか!?」」
「「ぐわあああ」」
「き、く、ぐえ。た、たすかった」
桃太達の歓声と、完全正義帝国兵の悲鳴が響き渡る中、猫に締め上げられていた少年は、解放されるや否や何もなかったかのようにガッツポーズを決めた。
「相棒、サメ子。待たせたな。嵐を呼ぶ風雲児、五馬乂。義によって助太刀するぜ!」
あとがき
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