第74話 勝利の宴
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、黒いドレスをまとった妖艶な魔女、獅子央賈南の誘惑をはっきりと断った。
巫女服姿の銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、そんな彼にしっかりとくっついて離れない。
(ああ、俺はきっとこの子の事が……)
少年は腕に触れた柔らかな少女の感触に、僅かな罪悪感と心臓に火がついたような高揚を覚えた。
「ならば、今は退こう。小娘にはわからぬだろうが、こういうのも恋のかけひきと言うものだ」
「違うでしょ。勝手なことを言わないで」
紗雨は張り合うように舌を出して、挑発する。
一方の賈南はまなじりに傷のついた左目をつむって、桃太に向かってウインクした。
「まあよい、次の演目もじき始まる。覚えておけよ。演じているのは、妾だけでなく、その小娘も同じ。そして、汝もそうだろう?」
「なっ」
桃太は反論しようとして、なぜか言葉に詰まった。
「出雲桃太。――汝はもう復讐者ではない。果たしてここから先も戦えるかな?」
パチン、と電灯のスイッチが切れるような音が響き、結界がとけて世界が元のカタチに戻る。
「紗雨ちゃん、あのひとは」
「気にしないサメ。どうせたいしたことは言ってないサメエ」
獅子央賈南は最初からいなかったように消えて、紗雨もまた巫女服ではなくサメの着ぐるみ姿に戻っていた。
「相棒、やったな」
乂が三毛猫の姿に変じた凛音を抱えて駆けつけ――。
「桃太君、無事なの?」
「おーい! 大丈夫かあっ」
遥花や林魚らレジスタンスの仲間たちも抱き合って、笑顔で桃太を胴上げした。
「ああ、大丈夫だよ。さあ皆、踊ろう!」
かくして、クリスマス作戦は成功した。
桃太達は、〝炎猫鬼〟アイムの残した火種と、〝大蛇の首〟となった黒山に破壊された櫓などの残骸を使って盛大なかがり火を焚き、〝鬼の力〟を浄化するダンスパーティを始めた。
誰もが焚き火の前で手製の楽器を振り、調子外れのクリスマスソングを歌い、輪になってくるくると舞った。
「出雲君、メリークリスマスだよっ。一緒に踊ろう!」
「もう遠亜っちは、いっつも抜け駆けしてズルい。矢上先生、お願いします」
「リーゼントもバッチリ決まっているぜイエーイ」
「今日はクリスマスだったのか。家族のことを忘れて、我々は何をやっていたんだあ」
喜びにわくもの、正気に戻って涙にくれるもの。反応こそそれぞれだったが、戦いが終わった今となっては、もはや敵も味方も関係なかった。
誰もが一様に、火で干し肉や野菜をあぶってかぶりつき、調子外れの歌を唄い、足が動かなくなるまで踊った。
そうして、誰もが精魂尽き果てて、眠ってしまった。
桃太が火の番をかって出て、寝転がる紗雨を膝枕しながら、燃える炎を見つめていると、乂がぶらりとやってきた。
「どうした、相棒。事件解決の英雄だって言うのに、生真面目だなあ」
「ずっと張り詰めていたからね、まだ眠れないんだ。乂は、これからどうするの?」
あとがき
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