第752話 地霊将軍ダンキンの切り札
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「わしは、他の長老どもと違ってこの年まで、異界迷宮カクリヨの現場で戦い抜いてきた。カムロのような例外はいざ知らず、あんな若造や小娘に負けるものかよ。それに、リノーが負けた相手に勝ったとなれば、ゼンビンへの牽制にもなる。わしには、奴らにもない切り札、〝砂丘〟があるゆえに、な」
異世界クマ国で一〇〇万人を殺傷したテロリスト団体、〝完全正義帝国〟の旧指導者の一人にして、歴戦の古強者でもある地霊将軍ダンキンは、毒を使う卑劣漢ではあるものの、彼なりの矜持と自信があるようだ。
「出雲桃太はカムロの弟子で、建速紗雨は養女と聞く。いずれクマ国の武神に挑むためにも、もっと力を引き出して情報を得るとしよう!」
ダンキンは巨体を揺らしながら、自らの鬼神具に向かって呼びかける。
「〝鬼神具・深森悪霊の宝玉〟よ。我を飾れ! 舞台登場 役名宣言 〝砂丘支配者〟」
彼が切り札とたのむ〝鬼神具〟の真価は、直後に明かされた。
ダンキンの軍服を飾る百を超える宝石が宙を舞い、ポーポーと耳障りな音を立てながら、黄色い砂の混じったガスを撒き散らす。
「キョキョキョ。クマ国反政府団体〝前進同盟〟代表のオウモより受け取り、八岐大蛇、第六の首ドラゴンリベレーター様が改造してより洗練させた、まったく新しい兵器〝砂丘〟。人の手が届かぬ〝鬼の力〟に恐れおののくがいい。戦闘機能選択、モード〝変色竜霧〟」
すると、ダンキンと彼が率いる兵士や屍体人形の姿が、まるで溶けるように景色の中へ消えて、見えなくなったではないか。
「桃太さん、ダンキンが使う〝砂丘〟には、姿が見えなくなる効果があるようです」
「さっきもこの力で隠れて村へ接近したのね。注意して」
桃太と紗雨の仲間である黒髪褐色肌の少年、芙蓉イタルと、セーラー帽をかぶった水色髪の付喪神、佐倉みずちが、レジスタンスメンバーと協力して脱出のためのイカダを作りつつ、アドバイスをくれた。
「イタル君、みずちさん。ありがとう、ならばこれで、我流・手裏剣!」
桃太は石礫に衝撃波をこめて投げつけガスを晴らす。
「キョキョキョ、残念だな小僧。そんなものでは蟷螂の鎌に等しいわ」
しかしながら、ダンキンが右手をかかげるやガスが再び集まって、敵の姿を覆い隠してしまう。
「サメエエ、足りないならもっと大規模に水柱でどうサメエエ」
「キョキョキョ、甘いわ小娘。我が〝砂丘〟の形態はガスだけにあらずっ。砂粒に変えれば衝撃や水を吸い取り、力に変えるのよ。戦闘機能選択、モード〝餓鬼砂壁〟」
紗雨がすかさず水を操って巨大な柱を呼び出して追撃するものの、ダンキンはそれを覆い隠すほどの砂壁を展開。〝鬼の力〟もろともに水を吸収されるという、目を疑う結果になった。
「サメーっ、心紺ちゃんの使う〝砂丘〟に似ているけど、ダンキンのはインチキサメエ。」
「〝砂丘騎士〟も汎用性の高い役名だったけど、〝砂丘支配者〟はより支援能力に特化したタイプか。厄介なっ!」
あとがき
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