第748話 聞き取り調査
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「紗雨ちゃん、桃太君。患者が目を覚ましたようよ。詳しい事情を聞きだすから船へ来てくれる?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、乗ってきたダブルカヌーへ戻ると、一命を取り留めたらしい鍛冶屋などが一〇人、毛布にくるまって横たわっていた。
どうやら黒髪褐色肌の少年、芙蓉イタルと、セーラー帽をかぶった水色髪の付喪神、佐倉みずちの治療が功を奏し、解毒に成功したらしい。
「はい、紗雨姫のお力になれるならば、是非お話させてください」
鍛冶屋達によると、九月の開戦からしばらくの間、数十万の人形兵を擁する〝完全正義帝国〟の猛攻に対し、クマ国軍の主力部隊は、終始圧倒されていたのだという。
「〝完全正義帝国〟に占拠されたコウナン地方では、屍体人形の軍団を作るために人を集めて殺す、地獄のような日々が続きました」
しかし、そんな地獄のような状況でも希望を捨てない者達がいた。
鍛冶屋達のように志を持つ者は、臥薪嘗胆の決意を秘めて服従し、あるいは山野に隠れ潜んで逆襲の機会を伺っていた。
そして、クマ国代表カムロが見出した切り札、左玄チョウコウが乾坤一擲の逆襲を決めた、運命の日がやってくる。
陸戦将軍コウエン、特務隊長アカツキらの活躍もあって、クマ国軍は一〇倍以上の戦力を誇る〝完全正義帝国〟を完膚なきまでに打ち破った。
「カムロ様たちが勝利した今こそ、ヒスイ河を浄化しよう」
「ただ殺されるのを待つくらいなら、戦おう」
「今こそ、死体人形を焼き払い、故郷に安寧を取り戻そう!」
クマ国が〝完全正義帝国〟を破ったヒスイ川の戦いのあと、コウナン地方各地で踏みつけられていた人々が、己の故郷を取り戻すために、レジスタンスとして立ち上がったのは自然な成り行きであったろう。
「俺達は、俺達の自由を取り戻す」
「侵略者なんかに、決して負けるものか」
一千年前の建国戦争以来、八岐大蛇の呪いと戦ってきたクマ国の民衆は、生まれつき〝鬼の力〟が強く、またコウナン地方には、クマ国の反政府団体〝前進同盟〟に協力し、正規軍ともバチバチやりあってきた戦闘経験者も多かったため、ある程度は民兵として戦えたのだ。
「とはいえ、レジスタンスが立ち上がった当初、我々はバラバラだった為、〝完全正義帝国〟に追い散らされるばかりでした」
桃太と紗雨は、共感して胸を痛めた。
二人がわずかな賛同者達と共に飛び込んだ、勇者パーティ〝C・H・O〟との戦いの折も……。
柳心紺と祖平遠亜が提案したダンス・リバーシ作戦を行い、〝鬼の力〟に汚染された冒険者達を踊りで正気に戻すまで、寡兵で大軍を相手取る劣勢を強いられたからだ。
「ですが、幸いにも〝前進同盟〟の幹部だという、ドランケン・フレンジーなる女性が、抵抗運動をまとめて、〝完全正義帝国〟をも圧倒するひとつのうねりを作り出しました」
そして次の説明を聞いて、桃太達は驚きのあまり、揃ってあんぐりと口を開けた。
「まとめ役の名前は、ドランケン・フレンジーさん? 直訳すると、酒乱って意味じゃなかったっけ」
あとがき
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