第744話 三世界分離計画を阻止するために
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「ぼくは思うんです。異界迷宮カクリヨに対抗し、八岐大蛇の首という問題を根本的に解決するためには、きっと地球とクマ国の両方が必要だ。それは、八岐大蛇の首を討ってきた、桃太さんと紗雨さんの旅路が証明しています」
黒髪褐色肌の幼い少年、芙蓉イタルは、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の少女、建速紗雨の手をとって、重ね合わせた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺は紗雨ちゃんと一緒だからできたんだ」
「イタル君も、これから一緒に頑張って欲しいんだサメエ」
イタルの発案は、桃太と紗雨を大いに勇気づけるものだった。
この発想は、地球人の血を引き、クマ国で生まれ育ったイタルであればこそ、考えついたものかも知れなかった。
「師匠は必ず止めてみせる。いや、イタル君、一緒に止めよう」
「皆で頑張ればジイチャンだってぶっ飛ばせるサメ!」
桃太と紗雨は、更にイタルの手を握りしめて、三つの手を重ねる。
幼い少年は、仲間に入れてもらえたことに歓喜して真っ赤になった。
「はは。カムロ様が進める三世界分離計画を止めるためには、あの方を打ち倒すよりも説得する方が容易いでしょう」
イタルが照れたせいか、珍しく楽観的な予測を告げたのに対し、三人を見守っていたセーラー帽をかぶる水色髪の付喪神、佐倉みずちは一瞬、奥歯をかみしめた。
「……」
カムロとも長い付き合いである彼女は、頑固一徹な友人が、決して説得に応じないだろうと理解していた。
それでも、口を挟まなかったのは、己が手で未来を掴もうとする子供達の邪魔をしたくなかったからだ。
「桃太さん、紗雨さん。今後は、クマ国の民衆が地球との共存を続けることを望むくらいの、カムロ様に勝る支持を集める必要があります。ですが、お二人はこれ以上ないほどに目立ちますし、望むように動かれたなら、自然と理解が進むことでしょう」
イタルはおおざっぱな今後の方針を決め、改めて目的地を示す。
「まずは完全正義帝国の拠点、コウナン地方北部の中心都市である、キソの里へ向かいましょう。みずちさんもそれで構いませんか?」
イタルに話を振られたみずちは、悪戯っぽく口角をあげる。
「ええ、道中で乂君と合流できるかも知れないし、案外、里の中でエロ本をばら撒いたら出てくるかも知れないわよ」
「え、え?」
みずちのすっとんきょうな作戦にイタルは一瞬、口をあんぐりと開けた。
「なるほどそれは名案だ。やってみよう」
「頑張るサメエ」
「……乂さん」
一方で桃太と紗雨は大きく頷いて、気合い入れとばかりにパァンと手を打ち合わせた。
イタル自身も半ば呆れつつ、短い付き合いながらそういう人だったなあと、改めて納得する。
「じゃあ、北に向かって出発しましょう。わたしは水を操れるから、川を遡るのも下るのもスイスイと行けるわよ」
「「みずちさん、よろしくお願いします」」
あとがき
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