表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/786

第73話 〝稀代の悪女〟獅子央賈南

73


 出雲いずも桃太とうたが振り返ると、黒山くろやま犬斗けんとのすぐそばで、左目尻に傷のある妙齢の女が立っていた。

 胸元と背中を大きく開いた、黒いイブニングドレスをまとう女は、特段目立つ美貌や豊かなスタイルというわけではなかった。

 だというのに、桃太は匂い立つような彼女の色気に頭がくらくらする。


獅子央ししおう賈南かなん、助けに来てくれたのか。そうだろうとも、お前はわしを選んだのだから。お前の望む通りに、目障りな三縞みしま家を葬ってやったぞ!」

「ああ、わらわの見込み通りだったぞ、黒山くろやま犬斗けんと。お前が無様に踊る光景は、胸がすくほどに滑稽こっけい愉快ゆかいだったとも」


 〝鬼の力〟に肉体を食われ、四肢ししを失った黒山が歓喜の声をあげるも、賈南の反応は冷ややかだ。


「貴様、言葉が過ぎるぞ。わしを誰だと思っている? エリートだからこそ、強大無比な鬼の力を使いこなしたのだ」

「……なんじは神話伝承にうとかったな。誤解しているようだから、教えてやろう。〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟に与えた〝鬼の力〟は〝ソロモン七二柱の魔神〟だ。多くの悪魔を率いる軍団の長にして、その本質はソロモン王に使役される〝使い魔〟よ」


 桃太は賈南の発言の裏に潜む、残酷な真意に気づいて身震いした。


「使い魔、だと?」

「もっとわかりやすく言ってやろうか。黒山よ、お前は、わらわ八岐大蛇やまたのおろちにとって、ただの猿回しの猿だった」

「うわあAAAAA!?」


 黒山は残酷な真実に心が耐えきれなかったのか、狂ったように吠え叫びながら、ゴロゴロと跳ね回った。


「貴女が、獅子央ししおう賈南かなんなのか?」


 桃太は浅い息を吐き、賈南へ吸い寄せられるように一歩を踏み出したところで、建速たけはや紗雨さあめにマウンテンパーカーの裾を引かれた。


「桃太おにーさん。近づいちゃ駄目」

「紗雨ちゃん?」


 桃太は、彼女の言葉遣いに違和感を覚えた。

 銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの妹分が、語尾にサメエをつけていなかったからだ。

 彼女は見慣れたサメの着ぐるみ姿ではなく、純白の小袖こそでに緋色のはかま穿いた、巫女の姿となっていた。


「小娘、そう殺気立つな。この場で戦う気はない。出雲桃太、八岐大蛇の〝三の首〟を討った其方そなたを、妾は口説きに来たのだ』


 美しい魔女の意外な呼びかけに、世慣れない少年は腰が抜けるほど驚いた。


「僕を口説きに来た? だって」

「そうとも。妾は男運というものがなくてな。夫の孝恵たかよしといい、この黒山といい、出会う男はまるでダメな男ばかりだ。桃太よ、お前に惚れた。妾と共に新世界を築こうではないか?」


 桃太は差し伸べられた手に、一瞬戸惑った。

 賈南の気配が、カムロに似ていたからだ。おそらくは同等の強さを秘めた傑物なのだろう。


「……悪いけど、貴方のことは好きになれそうにない」

「ふむ、今の妾が気に入らぬというならば、聖女せいじょでも娼婦しょうふでも、其方の望むままに演じよう。妾と契約を結べば、あらゆる願いを叶えられるぞ?」


 賈南が唇を開いてちろりと舌を見せると、桃太は蛇に睨まれた蛙の気分を味わった。


「黒山に力を与えたのは貴方だろう? 今度は俺を利用する腹づもりならば、お断りだ」

「ベーだ! ふられちゃったね。桃太おにーさんは渡さないよ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] C・H・Oが使っていたのが、ソロモン七二柱の魔神であって 鬼の力イコール魔神の力ではなかったのですね。 大蛇への進化や名前付きとかもあって、まだ鬼の力には秘密が多そうです。 桃太、ラスボス…
[一言] >妾は男運というものがなくてな 平衡世界視の巫「なら、ワタシが素晴らしく人間らしい男たちを紹介しますわ。黄金鍍金、詐欺師、本物の辺境伯……より取り見取りですわ」
[良い点]  こんばんは、上野文様。  実質クーデターの黒幕である黒山犬斗との戦いに勝利した桃太と紗雨。  その直後に全ての元凶とも呼べる八岐大蛇の意志を宿した獅子王賈南が突然登場。  黒山はてっき…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ