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第740話 出雲桃太、クマ国軍の戦勝を知る

740


 西暦二〇X二年一一月三〇日。

 白髪の老将軍、芙蓉ふようコウエンと、背から黒い翼が生えた若き鴉天狗からすてんぐ、甲賀アカツキの二人が率いた異世界クマ国の軍勢三万は、これまで百万人を超える民間の犠牲者を出した極悪非道のテロリスト団体〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の大軍三〇万と、ヒスイ河近辺で激突し……。

 

「「我らクマ国は、侵略者には決して屈しない!」」

「「一〇倍の戦力差があって負けるというのか、くそがあああ」」


 クマ国軍はほとんど死傷者を出すことなく、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の九割を壊滅させる、歴史的大勝利をおさめた。


「さすがはカムロさん、大逆転だ」


 戦いから一週間がたった西暦二〇X二年一二月六日。

 異世界クマ国代表カムロの弟子である地球日本の冒険者、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、コウナン地方北部の廃村を利用した隠れ家で、行商人から買った新聞を読み、満面の笑みを浮かべた。


「一時期は危なかったですからね。ホッとしました」


 桃太の隣で白湯を飲む、女性用のフリル付きブラウスを着てショートパンツを履き、黄色いゆったりとしたパーカーを羽織った、黒髪褐色肌の少年、芙蓉格ふよういたるが感慨深げに息を吐く。


「〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟を掌握したリノーは、少し前まで指導者だった長老達が潜むコウナン南部を囮に時間を稼ぎ、その隙に手薄となった北部、東部、西部の制圧を狙っていたようです」

「だから、イタル君のススメに従って、桃太おにーさんと一緒に頑張ったんだサメエ」


 サメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめが腕を組み、尻尾かざりをぺしぺし振りながら小ぶりな胸を張った。


「でも、カムロのジイチャンは途中から見守っていただけサメ。東部と西部で勝ったのは、左玄さげんチョウコウってひとが凄いんだサメエ」

「俺たちが船を潰して回ったのも、チョウコウさんの援護だったんだよね」

「はい、そうです。そうすれば、コウナン地方の陸路に精通した兄貴が奇襲しやすくなりますから」


 イタルの見通しは正しかった。

 桃太達の活躍もあって、クマ国の水軍はヒスイ河全域を完全に支配していた。

 通称〝北府隊ほくふたい〟と呼ばれる、左玄チョウコウ率いる強襲揚陸隊が〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟の補給地点を片端から焼き討ちにできたのも、浮遊する大型車両ホバーベースを使って、川という安全な通路を通り抜けたからだ。


「イタル君の目論見どおり、チョウコウさんが活躍したことで、〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟は食糧や武器の補充ができなくなった。これは戦いにくかっただろうね」

「サメエエ。お腹が空いて装備もスカスカだから、進軍速度も大幅に遅くなって、ヒスイ河では各部隊が連携もとれずバラバラに戦っていたそうサメエ」


 二人の述懐に、イタルはまるで悪戯が成功したかのような笑顔で頷いた。


「桃太さんや紗雨さんの言う通りです。川や海は、制水権を握っている側には、便利な防壁であり道路ですが、ない側にとってはいつ敵の奇襲を受けるかわからない死地となります。〝完全正義帝国スプラヴェドリーヴォスチ〟は、長老達はもちろん、リノーもゼンビンも理解していなかった。でも、チョウコウ兄貴は違います。ぼくたちのアシストから完璧な満塁逆転ホームランを決めてくれました」

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>カムロのジイチャンは途中から見守っていただけサメ 紗雨「サボってたジイチャンと乂は残業するべきサメ」
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