第737話 殺戮者ゼンビンを討て
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「チョウコウよ、火船による集中放火というのは凄まじいな。リノーめは、数を揃えることを優先したが、命令に従うだけの、自動化された屍体人形にばかり頼るのも考えものよな」
茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウの策は見事に的中した。
〝完全正義帝国〟の船は夕日が照らす川の真ん中で炎に包まれ、前線指揮官である長身痩躯の青年ゼンビンもまた、命を落とそうとしていた。しかし。
「八岐大蛇・第六の首ドラゴンリベレーター様は、屍体人形やら鬼神具の改造やらに御執心だが、殺し合いの根っこはつまるところ闘争心よ。心頭滅却すれば火もまたなんとやらってな」
なんということだろう。
ゼンビンは気合い一発、〝鬼の力〟で炎を振り払い、枯れ枝のような体にどこにそんな力があるのか、陸まで何十メートルもある川面の上を駆け出したではないか?
「チョウコウよ、殺し合いを続けようかっ。せっかくの舞台だ。今度は逃げるなよ」
「ゼンビンっ。お前、そこは人として死んでおけよっ!!」
ヒスイ河に建てられた桟橋で、燃える船団を見守っていたチョウコウも、このゼンビンの奇行には頭を抱えて絶叫。
「「うっそだろ司令官に近づけるな、撃てええ」
「「うちの隊長は弱いんだ。帰ってくれ!」」
昔から付き合いの長い輸送隊員も、新たに絆を育んだ鴉天狗や河童も、強襲揚陸部隊の戦友達は、手を取り合って大量の矢を射て術をはなち、なんとかゼンビンの接近を阻もうとした。
「かゆいわっ。〝鬼の力〟が生み出す攻撃とは、こういうものをいうっ」
「「うそだろ、剣撃だけで川を割った!?」」
しかし、ゼンビンが日本刀めいた鬼神具、オロチノアラマサを一閃しただけで、北府隊が放った飛び道具はすべて荒立つ水面に飲まれてしまう。
「な、なにかが飛んでくる」
「無詠唱の術、いや切ることそのものが発動条件?」
更には水の中から飛び出した、赤い光が、チョウコウの部下達をドミノ倒しに切り裂いた。
「司令官は、チョウコウさんは、わたしが守る。我が〝鬼神具・蛇止丸〟よ、どうか応えてほしい。奥義、〝桜雲絶景〟!」
しかし、ここで副官である桃色の髪を縦ロールにまとめた少女、葉桜万寿がインターセプト。
黒い翼をはためかせながら、空中でホバリングし、蛇腹剣を天に掲げるや、連結していた木の葉状の刃がバラバラに解け、桜色の雷を放つ障壁となって赤い光を受け止めた。
彼女は、北府の一斉攻撃を浴びてなお、足を止めないゼンビンに対し、必殺の一撃を放つ。
「八雷神がひとつ、〝土雷神〟。これが大蛇を止める、雷の御柱です!」
桟橋を守るように、川べりを覆う雷の柱が立って、ドーン! という爆音が轟いた。
「グハハっ。気合いは十分だが、それでも、おれの首には届かんなあ」
されど、万寿がカムロから指導された必殺技をもってしても、ゼンビンには傷ひとつつけられなかった。
「うそでしょっ」
「邪魔だあああ」
ゼンビンは幽鬼のごとき細身の肉体ながら、雷光を引き裂くように突進を続け、日本刀型の鬼神具、オロチノアラマサを振り抜いた。
「チョウコウ、さんっ」
その一撃は、万寿の華奢な体を両断するに十分だったろう。
「バンジュちゃんに、なにをしやがる!」
だがその直前、彼女の上司であるチョウコウが身を挺して割りいった。
「うおおおっ。〝偽豪傑〟をなめるなああ」
チョウコウは夕闇に輝く月の光を〝山鶏魔女の鏡〟で受けて自らを照らし、一瞬だけ竜人装束の姿に変身した。
籠手についたトンファーで刃を受け止めるも……、ゼンビンの振るう日本刀オロチノアラマサは、川をも割るほどの豪剣だ。あっさりと切りくだかれ、鮮血がしぶいて、桟橋を赤く染める。
「チョウコウ。臆病者め。少しはやる気に火がついたか!」
「司令官、いけません、血が、さがって」
あとがき
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