第736話 クマ国と完全正義帝国の命運をかけた戦い
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「ゼンビン、遅かったじゃないか。こっちはもう祝勝会の前夜祭が盛り上がりすぎて、くたくただ」
「グハハ。最後の晩餐ってやつか。終わったなら潔く冥土へゆけい」
西暦二〇X二年一一月二五日午後。
ヒスイ河本流の対岸で向かい合った、茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウと、白い短髪で長身痩躯の〝殺戮者〟ゼンビンは、それぞれ軍を率いて再び激突した。
「「チョウコウ、元輸送隊長風情がえらそうに。眼前にあるジャンク船団と、大量の〝兵士級人形〟、大火力の〝騎士級人形〟が目に入らないか」」
今となっては貴重極まりない、一〇隻の大型船でやってきた〝完全正義帝国〟軍は、長距離移動で疲れ果てていたものの、数と兵器にまさることで意気軒昂だった。
「おう、おう。クレーマーの皆さん、今回は立派なハリボテ、いやキャンプファイヤーの火種を準備してくれてありがとうさん」
されど、先行していたチョウコウ達、クマ国強襲揚陸部隊が何の準備もしていないはずはない。
河岸の桟橋に立つチョウコウを要に、開いた扇のように小型船を展開して待機。戦闘開始直後から、あたかも渦を巻くかのごとく、敵艦隊を取り囲みながら移動し始めた。
「カムロさん相手にはさっぱり効かなかったが、今度こそは成功だ。勝てない強敵が相手なら、勝てる場所まで招き寄せて討つ。これぞ〝調虎離山の計〟ってね!」
チョウコウは、〝完全正義帝国〟の船団が、河中央まで達したところで拳をかかげふ合図を送り……。
葉桜万寿ら〝北府隊〟の術師達が、風や水の鬼術で加速させた小舟をぶつける。
いわゆる小早と呼ばれる櫓を持たず、帆と櫓で動く簡素なボートには、ガソリンや発火札が山と積まれていた。
「グハハ。チョウコウ、そう来たかっ」
「「ひっ、やめろっ。死ぬのはお前らで我々じゃなーい!」」
「……一瞬だが、〝偽豪傑〟の力を解放する。溢れるパワーは、風すらも動かす。秘技、〝竜吼旋風〟!」
チョウコウが放つ風にのり、無人船はあたかもミサイルのように敵艦隊へ突撃し、爆破炎上を繰り返したながら嵐のように吹き荒れる。
「「GAAAAA!?」」
物悲しい叫び声は、屍体人形にされた犠牲者の怒りか悲しみか、それとも救ってくれたことへの感謝だろうか?
河川の上を群れなして飛ぶ天使を模した人形の大軍も、一撃で小船をしずめる火力を持つ戦車キメラも、燃える業火の中で焼かれて、紙吹雪のように散っていった。
「ゼンビン。俺はアンタみたいな本物の豪傑じゃない。もし一騎打ちをすれば、百回戦って百回負けるだろうさ。だが、万寿ちゃん達、部下の力を借りる集団戦なら、お前相手にも一勝をもぎとれる」
「グハハっ。それでこそ、それでこそ、おれが認めた指揮官よ。実に愉快ぞ!」
ゼンビンは燃える船の中で満面の笑みを浮かべ、白い短髪から流れ落ちる汗をぬぐいながらゲラゲラと笑った。
「「くそがくそが、人形どもを使って火を消せ、ぐえええ」」
一方〝完全正義帝国〟の指揮官達は、どうにか屍体人形を操って事態を収拾しようとするも、酸欠で体が動かなくなり、バタバタと倒れた。
既にヒスイ河本流は火の海で、もくもくと立ちこめる煙とぱちぱちと飛散する火花は、天をも焦がすほどだ。
「チョウコウよ、火船による集中放火というのは凄まじいな。リノーめは、数を揃えることを優先したが、命令に従うだけの、自動化された屍体人形にばかり頼るのも考えものよな」
あとがき
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