第735話 チョウコウと北府隊の絆
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「逃げるとは言ったが、ゼンビンに目をつけられた以上、捕捉されるのは時間の問題だ。だから、俺はこの追われる状況を利用する」
茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウは、副官である桃色髪を縦ロールにまとめた鴉天狗の少女、葉桜万寿ら部下達の前で、自らの作戦を語った。
「あのクソ強いゼンビンを、〝完全正義帝国〟の主力部隊から引き離すことが出来たなら、この戦は勝ったも同然だ。なぜならアイツ以外に大部隊を指揮できる将帥はいない。ダンキンは遊撃部隊長としては屈指の強さだが、正面決戦に向いていないし、リノーは後方支援と綱紀粛正で手一杯。残る半端な指揮官が相手なら、コウエン将軍やアカツキ特務隊長が必ずケリをつけてくれるだろう。もう司令官の地位は無用だな。やっと無職になれる」
チョウコウは、万が一の為の連絡手段とひて用意されていた〝遠隔通神〟用の手鏡で、異世界クマ国の代表たる、牛頭の仮面をかぶった老いたる幽霊カムロに呼びかけた。
「カムロさん、司令官の職を返上する。厄介な〝殺戮者〟ゼンビンは俺が引きつけるから、あとは奴のいない〝完全正義帝国〟に引導を渡してくれ」
「チョウコウ。うちはブラック……ごほん、アットホームな職場だから、役職の返上も退職も認めない。コウエンとアカツキには、代わりに僕の方で指示を出しておくから生き延びろよ、健闘を祈る」
「マジかよ。やるだけやってみるが、死んじまったら、給料と見舞金の半分は部下達に、もう半分はイタルにやってくれ」
チョウコウは通神を切った後、微笑みかける。
「バンジュちゃん、強襲揚陸部隊〝北府隊〟の皆、ここまで付き合ってくれてありがとうよ。さあ降りた降りた。ボーナスが入ったら、俺の墓へ線香のひとつでもあげてくれ」
チョウコウは、〝完全正義帝国〟の前線指揮官ゼンビンを惹きつける囮となるために、万寿ら部下達を避難させようとしたが、ホバーベースから降りようとする者は一人としていなかった。
「白状すると、俺にはもう手札がない。〝山鶏魔女の鏡〟も休息が必要で、しばらくの間は〝偽豪傑〟になれるのも一瞬だけ、それも一度か二度が限度だろう。俺と一緒に居ても死ぬだけだ」
「そんなの関係ありません。司令、いえ、チョウコウさんは、あのカムロ様と戦って認められたんです。わたし達にとって一番安全なのは貴方の側です」
鍛えた肉体の青年は、桃色髪の鴉天狗に言われて、目頭を押さえる。
「それに司令官だけじゃホバーベース〝北府号〟は、動かせないじゃないですか? どうせなら皆で楽しく作戦をやっちゃいましょう」
「カムロさんにとっ捕まった以上、アンタだけじゃ不安ですからね。今回は最後までお供しますよ。地獄への旅もメンツなら愉快でしょうよ」
「そっか。そう言ってくれるのか」
チョウコウはハンカチで鼻をかんだ後、腕まくりしてこぶをつくった。
「みんな、付き合ってくれ。逃げるだけは、楽しくないからやめだ。どうせなら、クマ国と〝完全正義帝国〟の命運をかけたド派手な作戦をやろうぜ」
「「おう!」」
チョウコウは、鴉天狗の助力でホバーベースを飛ばして山を越え、河童の力を借りてヒスイ河本流を逃走。
三日の時間をかけて、ハチコウ山の麓にある漁村へと辿り着く。
「追いつけないだとっ。クソジジイどもの洗脳教育のせいで、層の薄さがもろに出たか」
一方、チョウコウを追うゼンビンの部隊は屍体人形を動かす隊長格が減っており、柔軟な行動が取れなかったか、戦場への到着が遅れに遅れた。
「ゼンビン、遅かったじゃないか。こっちはもう祝勝会の前夜祭が盛り上がりすぎて、くたくただ」
あとがき
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