第72話 〝八岐大蛇・三の首〟討伐
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「舞台蹂躙、役名変生――〝大蛇〟! わしは最強の存在だあ!」
黒山犬斗は呪われた最後の銃弾を、自らに向けて放つことで、〝豹口鬼〟から更なる悪鬼へと更なる進化を遂げた。
「グヒヒ、小僧め。わしの足が〝千曳の岩〟から削りとった端末であることに気づかなかったろう。この深謀遠慮こそ、わしが人を超えた真のエリートである証。地を裂き山を割る力に、恐れ慄けええ!」
黒山は、全長一〇メートルの巨大な大蛇となった体をくねらせながら、岩をも溶かす毒の息を吐き、〝鬼の力〟によるビームを瞳から発した。
「なんだ、流れ弾!?」
「うわああああああ!!」
その威力は広間の岩盤を貫き、秘密基地内に流れ弾が届くほどだ。
矢倉や防壁が吹き飛び、毒ガスを吸った両陣営の冒険者がもんどりうって倒れる。
「〝夜叉の羽衣〟よ、応えて。柳さん、祖平さんは毒の解呪を! 林魚君達は倒れた人の避難を手伝って!」
「「はいっ」」
「「わかりましたっ」」
とはいえ、遥花が指揮するレジスタンスが、互いに助け合って立て直したのに対し――。
「ちくしょう、装備を寄越せ」
「うるさい、これはおれのだ」
元勇者パーティ〝C・H・O〟は見苦しくも同士討ちを始め、一気に崩壊した。
「何が深謀遠慮だ。後先考えていない見え見えの攻撃が、当たるかあ!」
「サメ分身サメエ」
そして桃太は、紗雨が作った囮に黒山の攻撃をひきつけ、自らは左手にまとう水のドリルで大蛇の尾を削り始めた。
「ええいちょこまかと、ならば、こうしてやる!」
黒山は痺れを切らしたのだろう。
敢えて桃太を待ち受け、家ほどもある大口をあけ、禍々しい牙を開かせて桃太に食らいついた。
「劣等生など一呑みよ!」
「憑依解除」
額に十字傷を刻まれた少年は、サメの仮面を外して、にこりと笑った。
「俺の間合いへようこそ、〝生太刀・草薙〟!」
「こ、こんな馬鹿なあああ!」
桃太は右手を高々と掲げ、薙ぐように手刀を振るって、大蛇の頭へ直撃させる。
次の瞬間。衝撃の刃が半径二メートルの空間を微塵に切り刻み、大蛇の頭ごと上半身を粉砕。
残された長大な下半身も、赤い霧と黒い雪となって崩壊を始めた。
「臨兵闘者皆陣烈在前――九字封印!」
桃太が九字を切ると、鬼の仮面が真っ二つに割れて、蛇の胃中から黒山が転がり出た。
されど、〝鬼の力〟に身を委ねた因果が応報したのだろう。彼の四肢は食われて消え失せていた。
「なぜだ。わ、わしは、さいきょうのちからを得たのにっ」
「八岐大蛇の首は、この世で最強の力だ。といっても使いこなせなければ、宝の持ち腐れよなあ」
「誰の声!?」
桃太は不意に、どこかで電灯のスイッチが入るような、世界がズレるような不可思議な感覚に身震いした。
(これは、カムロさんと同じ結界、か? だけど、妙に血生臭くて、甘ったるい……)
あとがき
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