第733話 偽豪傑 対 殺戮者
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「悪いこと、か。〝完全正義帝国〟を裏切ったことをはじめ、我々に都合の悪いことは山ほどやっただろう? チョウコウ、祖先の誇りを忘れたか?」
「ゼンビン、アンタのやっている身内殺しや民間人虐殺のどこが祖先に誇れるっていうんだ? そもそも俺たちの家の証明である姓を奪ったのは、長老達で、アンタもその被害者だろうがっ」
西暦二〇X二年一一月二二日昼。コウナン地方西部にて……。
茶髪天然パーマの青年、左玄チョウコウの問いに対し、幽鬼のように青白い肌と、枯れ枝のように細い手足を持つ白髪痩躯の男ゼンビンは、赤く輝く日本刀オロチノアラマサを鞘から抜きながら、冷ややかに尋ね返した。
「異世界の人間に、頭を垂れて生きろというのか?」
「八岐大蛇の首、その靴を舐めるのは楽しいかい?」
異世界クマ国と〝完全正義帝国〟、双方の兵士達が固唾を飲んで見守る中、川を挟んでゼンビンとチョウコウは煽り合う。
「……グハハ。いい気合いじゃないか、チョウコウ。リノーはお前を〝完全正義帝国〟の幹部にしようとしたが、おれは反対したんだ。どうやら正解だったようだ」
ゼンビンは、自分より背が低いものの体格のいいチョウコウを見下ろしながら、満足そうに笑った。
「そいつはサンキュー。俺も屍体人形なんて兵器を作る為に、人殺しを重ねるイカレ集団の幹部に勧誘されなくて、ホッとしたぜ」
チョウコウもここぞとばかりに虚勢をはるものの、ゼンビンから返ってきた反応は予想外のものだった。
「そうだろうそうだろう。お前は鬼には向かないし、なにより敵にした方が面白そうだからな」
「え、マジかよ。そういうのやめて」
チョウコウは手を前につきだしぶんぶんと首を横にふるも、やる気になった悪鬼はとまらない。
「さあ、狩らせてもらうぞ。〝鬼神具〟、オロチノアラマサよ、血をすすれ。舞台登場 役名宣言――〝殺戮者〟!」
身長二三〇メートルに達する、幽鬼めいた白髪の男は、ケラケラと愉快そうに笑いながら、赤く光る日本刀を振り回す。
「じ、冗談じゃねえ。〝山鶏魔女の鏡〟よ、我を写せ。偽りであればこそ、俺はヒーローとなる。舞台登場 役名宣言 ――〝偽豪傑〟」
一方のチョウコウもまた竜人に変身して、籠手についたトンファーを構えるも腰砕けだ。
副官である桃色髪を縦ロールにまとめた鴉天狗の少女、葉桜万寿はそんな上司を勇気づけようと声をあげた。
「総員、司令官を援護しますよー。作戦を忘れずに!」
「「りょうかいっ」」
万寿を中心とした隊員は、身体能力向上の風の鬼術を重ねがけして迎撃を開始。
「皆殺しだ」
「あの娘は殺すなよ。戦いのあと、皆で楽しもうぜ」
一方、〝完全正義帝国〟の指揮官達は下品な笑みを浮かべながら、屍体人形を操って応戦する。
「クソッタレ。元仲間といえ、こいつらの考え方はやっぱり最悪だわ」
「グハハ。戦争とはそもそも最悪なものだろう? だったらお前も参加者の一人として、楽しめよ」
「ふざけんな。そういうのは、鬼の理屈なんだよ。……くっそ強え。勘弁してくれ」
チョウコウはゼンビンと、ヒスイ河の支流、その浅瀬でしばし打ち合ったものの、恵体と細身という体格差をもってしてなお押されていた。
「チョウコウよ、ここまで打ち合えるとは、素晴らしい。さあどうやっておれを殺す? 作戦というからには、当然なにか策はあるのだろう」
「ああ、あるとも。たったひとつだけ、とっておきの策がな」
あとがき
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